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1.研究概要

 「三つ子の魂百まで」のことわざが、脳の成長では現実の現象として注目されています。スポーツや音楽、外国語といった習い事は、大人よりも子どものほうが上達や習得が早いことを実感した方も多いはずです。子どもの脳には、個々の体験・経験に応じて神経回路を集中的に作る特別な時期(臨界期)があり、この時期に作られた神経回路は個性として大人まで保たれる傾向にあります。臨界期の仕組みを研究することで、脳の柔軟性を作り出すメカニズムを明らかにし、脳機能の再建など、疾患の治療にも貢献することを目指しています。

2.研究テーマ

「臨界期」の経験は、視覚の発達にも大きな影響を与えます。臨界期に片目を閉じて経験を妨げると、閉じた目からの情報よりも、開いた目からの情報を多く受け取るように、神経回路が作られます(眼優位性可塑性)。その結果、閉じた目の視力は著しく弱くなり(不同視弱視)、臨界期を過ぎた大人では、治療をしても回復しないことが知られています。しかし、どのような仕組みで子どもの脳に臨界期が現れ、またなぜ大人の脳に現れないのか、未だに分からない点が多くあります。研究室では、胎生期に脳を作るホメオ蛋白質が、生後の脳を発達させる働きも持つことに注目しています。これまでに、マウスを用いた研究から、ホメオ蛋白質が経験に応じて神経細胞間を移動し、臨界期の時期を制御することが分かってきています(Sugiyama et al., Cell 2008, DGD 2009)。そこで、@子どもの脳に臨界期が現れ、大人の脳に現れない仕組み、A経験に応じて脳が成長する仕組み、Bホメオ蛋白質が個々の体験・経験に応じて脳を移動する仕組み、について主に解析を行っています。

図1

3.最近の研究成果(専門的な内容になります)

○臨界期に関与する遺伝子群の探索
 発生学の知見から、ホメオ蛋白質Otx2は他の遺伝子の発現を制御する転写因子として知られています。そこで、生後発達期の大脳においてOtx2が直接発現を制御し得る標的遺伝子群を明らかにするために、ChIP-seq(クロマチン免疫沈降 / 次世代シークエンス解析法)を行いました。その結果、臨界期関連遺伝子に加えて、精神疾患やミトコンドリア機能に関与する遺伝子が標的になることを示しました(Sakai et al., Front. Neurosci. 2017)。さらに、Otx2変異マウスを用いて抑制性介在ニューロンを分取し、発現解析(RNA-seq)を行うと、Otx2は神経活動に応答する最初期遺伝子や、酸化ストレスに応答する遺伝子の発現を制御し、PV細胞の機能と恒常性を保つことが推測されました。Otx2は大脳に発現しませんが、神経回路や脳脊髄液によって大脳全域に運ばれ、PV細胞に特異的に取り込まれます。さらに、ヒトのOtx2変異は発達障害や双極性障害に関与することが報告されています。本研究により、大脳の広い領域にわたり、Otx2がPV細胞と脳機能の発達に関わることが示唆されました。

図2 図3

○ホメオ蛋白質Otx2が大脳の抑制性介在ニューロンに局在する仕組み

 転写因子として知られるホメオ蛋白質Otx2が、脳内を経験とともに移動するという報告は、世界にインパクトを与えました。なぜOtx2は大脳のPV細胞に運ばれるのか? まず始めに、PV細胞を特異的に取り囲む細胞外基質perineuronal net(PNN)に注目しました(Sugiyama et al., DGD 2009)。そして、Otx2にはPNNに沢山含まれるコンドロイチン硫酸糖鎖に結合する配列があり、糖鎖との結合によりPV細胞特異的に取り込まれることを示しました(Beurdeley et al., J. Neurosci. 2012)。さらに、Otx2とコンドロイチン硫酸は誘導ループを形成して互いの量を増幅させ、PV細胞の機能を発達させることを明らかにしました(Hou et al., Sci. Rep. 2017)。その結果、Otx2やコンドロイチン硫酸の量に依存して、臨界期(Critical Period)の始まりと終わりが誘導されることが分りました。一連の解析により、ホメオ蛋白質Otx2の量を増減させることにより、マウスにおいて臨界期の始終を人為的に操作することが可能になったといえます(大人マウスに臨界期を誘導し、弱視を治すことも可能です)。

図4
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