新潟大学医学部医学科

HOME > NEWS&TOPICS

sp

平成29年12月20日

No_70 3Dイメージングの新技術開発により左右非対称性の基盤となる細胞の運動を発見 −キラリティが脳の左右差を生み出す機構の解明へ−

本学大学院医歯学総合研究科の玉田篤史研究員と五十嵐道弘教授の研究グループは、細胞の3D構造をライブで可視化する新規の顕微鏡観察法を開発し、細胞の形と動きを自動解析する技術を確立しました。これを用いて、神経細胞および細胞性粘菌が、キラル(注1)な旋回・らせん運動(注2)を示すことを発見しました。本研究成果は、バイオイメージングと画像解析において革新的な基盤技術を提供すると同時に、細胞のキラリティから脳や臓器などの左右非対称な器官形成に至るメカニズムの解明に貢献すると期待されます。
 
【本研究成果のポイント】
・光に対して弱い細胞の3D高速ライブイメージング顕微鏡観察法を開発した。
・細胞の形と動きを自動解析する技術を確立した。
・神経細胞および細胞性粘菌がキラルな旋回・らせん運動を示すことを発見した。
・本技術を駆使することで、キラリティが脳や内臓の左右非対称性に変換される機構が解明されると期待される。
 
Ⅰ.研究の背景
私たちの体の器官の多くはほぼ左右対称な配置をとっていますが、内臓の一部(肝臓、心臓など)にみられるように左右非対称な器官も存在します。脳においても、ヒトで言語中枢が左大脳半球優位であるなど、機能的な左右差があることが知られています(発見者の1人であるスペリー博士は1981年ノーベル賞受賞)。しかし、脳の左右差がどうして生じるのか?という問いにはまだ誰も答えられていません。私たちは「左右差の起源が分子構造のキラリティにある」との仮説を立てて研究を進めてきました。キラリティとは、鏡像が元の像と重ならない幾何学的性質であり、DNAの右巻き二重らせん構造、タンパク質の右巻きαへリックス構造など、ほとんどの生体高分子でみられる性質です。一方、私たちの以前の研究(Tamada et al.,J Cell BIol.,188, 429, 2010)を契機として、分子だけでなく細胞でのキラリティの報告が近年世界中で相次いでおり、細胞のキラリティが、分子のキラリティと生体の左右非対称性をつなぐ中間に位置し、左右非対称性の形成メカニズムを解き明かす鍵として、注目を集めています。
キラリティと非対称性形成のメカニズムを解明するためには、キラル現象の正確な情報が必要になります。キラリティは3次元(3D)的な概念であり、現象の詳細な記述には3D、時間軸を含めれば4Dの膨大なデータ計測と解析が必要不可欠です。ところが、1)細胞を3Dライブイメージングにより精密に計測し可視化する技術、2)高次元の画像データから形と動きを自動解析する技術、はこれまで存在しませんでした。
 
Ⅱ.研究の概要
そこで、本研究では、まず3Dイメージング技術の開発を行いました。細胞のライブイメージングには蛍光顕微鏡を使用するのが一般的ですが、この方法で高頻度3D撮影すると、通常の生細胞では、励起光に起因する光毒性により構造が簡単に壊れてしまいます。一方、古くからよく使われている微分干渉顕微鏡(注3)を使用すれば、無染色・低毒性で高解像度撮影が可能ですが、陰影の付いた画像しか得られず、そのままでは3D可視化・解析に使えません。私たちは、リース変換(注4)と呼ばれる特殊な数学的操作を施すことで、微分干渉像に含まれる陰影付きの位相情報を輝度情報に変換する方法を考案し、「リース変換微分干渉顕微鏡法(RT-DIC)」と名付けました(図1)。本手法を使うことで、蛍光像とほぼ等価な、明るく光る輝度画像を得て、脆弱な細胞をライブで3D可視化することに成功しました。

You can see a large image by click.

次に、多次元画像データから細胞の形と動きを自動解析する手法の開発を行いました。コンピュータービジョンの技術を取り入れ、画素ごとの形状と運動の物理量を数値的に推定する手法を確立しました。形については、輝度勾配の3D空間的広がりを表す構造テンソル(注5)を計算し、そこから画素ごとの基礎形状(面・線・球の各構造の確からしさ)と線維の方向を推定しました(図2)。動きに関しては、各画素について、フレーム間の3D変位ベクトルをオプティカルフロー(注6)として計算し、速度・加速度・躍度などの並進物理量および角速度・曲率・捩率などの回転物理量を推定することに成功しました(図3)。さらに、画素ごとの形状情報と運動情報を時空間的に統合することにより、粒子・細胞・線維の走行経路・運動軌跡を追跡することに成功しました。
 
今回開発したイメージング技術と画像解析技術を、伸びていく神経の先端構造で伸びる方向の制御に重要な、神経成長円錐(注7)のキラリティ解析に応用しました。RT-DICの結果、神経成長円錐の3D形態と動きをとらえることに世界で初めて成功し、そのフィロポディア(運動性を支配する動的構造;注7参照)が激しく動きまわる様子を観察できました(図4)。さらに画像解析により、それらの形と動きを数値化することに成功し、フィロポディアが右ねじ回転と後退運動を伴う左らせん運動をするという、神経成長円錐の運動様式を明らかにすることができました(図4)。以前の研究では、神経突起が2D基質上で右回り(時計回り)に旋回しながら伸びることを手作業のトレースと角度計測による煩雑な解析により定量しましたが、今回開発した手法により、同一の現象をさらに簡便かつ自動的に定量できました。
 
私たちは今回の技術を別の細胞にも応用し、細胞の分化、移動、形態形成のモデルとしてよく実験で使われる生物である細胞性粘菌(注8)の運動を観察しました。単細胞期でアメーバ状の粘菌細胞を解析すると、2D基質上では細胞が右回り(時計回り)に旋回しながら移動、3D環境だとフィロポディア様の突起が右ねじ回転していることがわかりました。

You can see a large image by click.

 
Ⅲ.研究の成果
本研究により得られた細胞のキラリティに関する成果をまとめると図5のようになります。本研究では、神経成長円錐(哺乳類のマウスの脳で実験)および細胞性粘菌に関して、3D空間での形と動きを詳細に可視化し定量することに世界で初めて成功しました。成長円錐については、フィロポディアが右ねじ回転と後退運動の合成により左らせん運動することを発見しました。細胞性粘菌では、フィロポディア様の突起構造が成長円錐同様に右ねじ回転することを明らかにしました。2D基質上では、神経細胞が右旋回するのは既知の現象ですが、今回新たに、細胞性粘菌も同程度の回転速度で同じく右方向に旋回しながら移動することがわかりました。哺乳類(マウス)と細胞性粘菌は系統学的には全く離れていますが、似通ったキラルな運動様式を示すことがわかり、細胞レベルのメカニズムに関して共通性も示唆されます。
 
また本研究は、バイオイメージングや画像解析分野において高い有用性と汎用性を持つ技術の開発に成功しました。特に、本研究のRT-DIC法は低毒性であり、蛍光顕微鏡で扱うことが困難であった、生細胞の3D構造のイメージングを可能にします。本手法については、オープンソースソフトウェアとしてImageJプラグインとMATLABコードを誌上で公開しています。RT-DIC法は蛍光顕微鏡の短所をカバーできる新たな手法として幅広く顕微鏡技術と医学生物学研究への利用が期待できます。

You can see a large image by click.

 
Ⅳ.今後の展開
生命現象で基本的な性質である左右非対称性が生ずる原理は、キラリティに基づくと考えられます。本研究成果により、これまで扱いの難しかったキラリティをシステマティックな手法で定量的に解析することが可能になり、細胞のキラル現象を正確に記述し特性を明らかにできます。本研究を含めた国内外の研究から、キラルな分子であるアクチン細胞骨格とミオシンモーターの相互作用が細胞のキラリティ形成に重要、との結果が示されています。近いうちに、本研究の成果を応用して、左右非対称性形成のしくみが解明されるものと期待されます。
 
Ⅴ.研究成果の公表
これらの研究は、本学超域プロジェクト「成長円錐の分子基盤に基く神経回路の形成と修復の総合的研究」、JSTさきがけ研究「脳情報の解読と制御」、文部科学省科学研究費新学術領域研究「共鳴誘導で革新するバイオイメージング」等により実施されました。研究成果は、Nature Communications誌(IMPACT FACTOR 12.124; Natureの姉妹誌で、多分野の重要な論文を速報するオープンアクセスジャーナルであり、同様の性格を有する国際誌の中で最もインパクトファクターが高い)に平成29年12月19日午後7時(日本時間)に掲載されました。
 
論文タイトル:Revealing chiral cell motility by 3D Riesz transform-differential interference contrast microscopy and computational kinematic analysis
著者:Atsushi Tamada¹,²,³,* and Michihiro Igarashi¹,²
1 Center for Transdisciplinary Research, Institute for Research Promotion, Niigata University, Niigata 951-8510, Japan.
2 Department of Neurochemistry and Molecular Cell Biology, Graduate School of Medical and Dental Sciences, Niigata University, Niigata 951-8510, Japan.
3 Decoding and Controlling Brain Information, Precursory Research for Embryonic Science and Technology, Japan Science and Technology Agency, Kawaguchi, Saitama 332-0012, Japan.
* corresponding author
 
玉田篤史¹,²,³,*、五十嵐道弘¹,²
1 新潟大学研究推進機構超域学術院
2 新潟大学医歯学総合研究科神経生化学分野
3 科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業(さきがけ)「脳情報の解読と制御」
*責任著者
doi: https://doi.org/10.1038/s41467-017-02193-w
 
 
用語説明
注1:キラリティ・キラル
キラリティとは「3Dで物体や現象がその鏡像と重ね合わせられない幾何学的性質」のこと。キラリティがある状態をキラルという。キラルな例としては、手(右手の掌と左手の甲を向かい合わせたときに重なり合わない)、らせん(右らせんと左らせんは重ならない)などがあげられる。
 
注2:旋回・らせん
回転とは、物体などがある点や軸を中心として回ることを指し、幅広い意味を持つ。旋回とは、同一平面上での回転を指す。2D平面での運動の場合、回転運動は旋回成分のみとなり、回転の程度は曲率(回転半径の逆数)で表される。3D空間での運動の場合、回転運動は旋回成分(曲率)と捩れ成分(捩率、れいりつ)の2つで表される。旋回のみの場合は平面的なカーブ、捩れのみの場合はスピン運動になる。らせんとは3D曲線の一種であり、平面的な円運動とそれに直交する直線運動を組み合わせたものである。ねじの山、コイルなどが例として挙げられる。生体高分子の多くもらせん構造をとる。らせんはキラルであり、右巻きと左巻きの2種類がある。
 
注3:微分干渉顕微鏡
光学顕微鏡の一種であり、プリズムで分割した2つの偏光を標本に照射し、透過した光を再び合成するときに生じる干渉により、標本の厚みの差を高感度で検出する。無染色で高コントラスト、高解像度でハロー(光のにじみ)のない画像が得られるなど利点が多い。しかし、プリズムの方向に陰影が付くという欠点を持ち、像の明暗情報の解釈が難しい。たとえば、物体の中心は、プリズムの方向に沿って明暗の変化が最も大きく、それに直交する方向に沿って最も暗い点ということになる。また3D表示にも不適である。
 
注4:リース(Riesz)変換
画像などの多次元信号の位相を90度ずらす操作である。電波・音波などの一次元信号の位相を90度ずらす操作はヒルベルト変換としてよく使われるが、リース変換はこの多次元版に相当する。2次元画像の場合、直交する2つの成分より構成される。実際の操作は、フーリエ変換、リース変換フィルターによる乗算、逆フーリエ変換の3つの単純なステップで済む。今回のリース変換微分干渉法では、陰影方向に1回(90度シフト)、直交方向に2回(180度位相反転)の複合フィルターを用いてリース変換を行うことで陰影を除去している。
 
注5:構造テンソル
輝度勾配テンソルとも呼ばれ、画像の輝度を微分した輝度勾配ベクトルを掛け算してテンソル化して平滑化したものであり、3Dの場合3x3行列で表される。輝度勾配の空間的な広がりを表し、画素毎の形状の指標として用いられる。
 
注6:オプティカルフロー
コンピュータービジョンの基礎技術で、2つのフレームの画像から画素毎の変位ベクトルを推定する手法である。時間差のあるフレーム間であれば、速度ベクトルが求められ、点の動きを推定することができる。画像の相関を利用する相関法、輝度勾配を利用する勾配法などの手法がある。本研究では、代表的な勾配法であるHorn-Schunck法を3D画像に適用し、さらに大きな変位にも対応できるようにマルチスケール化した方法を用いている。
 
注7:(神経)成長円錐
神経細胞が伸ばす神経突起の先端に存在する微細な構造体。成長円錐はフィロポディア(糸状仮足)と呼ばれる針状の細い突起を動かしながら周囲の環境を探知し、神経の伸長とその方向を制御することで、脳の回路の形成に重要な役割を果たしている。
 
注8:細胞性粘菌
学名Dictyostelium discoideum(和名キイロタマホコリカビ)。土壌に広く分布する微生物で、餌がある状態では単細胞のアメーバとして行動・増殖するが、飢餓状態になると多く細胞が集まり、ナメクジ状の移動体を形成し、最終的に移動を停止して胞子を含んだ子実体を形成する。細胞の分化や移動・形態形成などの研究で、モデル生物として汎用される。
 
 
本件に関するお問い合わせ先
新潟大学大学院医歯学総合研究科分子細胞機能学、及び医歯学系神経生化学分野
(医学部生化学第二)
玉田篤史 研究員
E-mail:tamada@med.niigata-u.ac.jp
五十嵐道弘 教授
E-mail:tarokaja@med.niigata-u.ac.jp

sp
sp

平成29年12月15日

No_69 分子生理学分野 任 書晃 准教授と日比野 浩 教授の“内耳イオン動態のシミュレーション”の論文が、Natureasiaウエブサイトの「おすすめのコンテンツ」に紹介されました。

任 書晃 准教授と日比野浩 教授(分子生理学分野)の内耳イオン動態のシミュレーションの論文の内容〔npj (nature partner journal) Systems Biology and Applications 3: 24, 2017〕が、Natureasia日本語ウエブサイトの「おすすめのコンテンツ」に紹介されました。
https://www.natureasia.com/ja-jp/npjsba
このサイトは、Springer Nature東京オフィスが注目度の高い論文を選んで簡単に解説するものです。
本論文では、内耳の中を定常的に流れるイオン電流を、独自のコンピュータモデルによりシミュレーションしました。そして、聴覚に不可欠な特殊電位環境の維持メカニズムの一端を明らかにしました。これは、長年不明であった疑問に一つの答えを与えるものです。

 
本件に関するお問い合わせ先
新潟大学大学院医歯学総合研究科(医学部)
教授 日比野浩
E-mail:hibinoh@med.niigata-u.ac.jp

sp
sp

平成29年12月04日

No_68 分子生理学分野 日比野浩 教授と緒方元気 助教の“薬物モニターシステム開発”の論文が、Natureasiaウエブサイトの「おすすめのコンテンツ」に紹介されました

平成29年8月10日付けで本HPに掲載された、日比野浩 教授と緒方元気 助教(分子生理学分野)の薬物モニターシステム開発の論文の内容〔Nature Biomedical Engineering 1: 654-666, 2017〕が、Natureasia日本語ウエブサイトの「おすすめのコンテンツ」に紹介されました。
https://www.natureasia.com/ja-jp/natbiomedeng/ このサイトは、Springer Nature東京オフィスが注目度の高い論文を選んで簡単に解説するものです。

 
本件に関するお問い合わせ先
新潟大学大学院医歯学総合研究科(医学部)
教授 日比野浩
E-mail:hibinoh@med.niigata-u.ac.jp

sp
sp

平成29年11月09日

No_67 神経発達学分野 杉山清佳 准教授と神経生化学分野 五十嵐道弘 教授の共同研究論文が11月6日付の新潟日報で紹介されました

平成29年10月4日付けで本HPに掲載された、杉山清佳准教授(神経発達学分野)と五十嵐道弘教授(神経生化学分野)による共同研究論文の内容(Scientific reports 7(1):12646)について、『「コンドロイチン硫酸」の量 脳神経回路発達と関連』と題して、平成29年11月6日付け新潟日報紙で記事掲載されました。

sp
sp

平成29年10月30日

No_66 腎臓のタコ足細胞を培養で再現することに成功 −糸球体濾過調節の研究に新たな道を拓く−

新潟大学大学院医歯学総合研究科腎研究センター腎構造病理学分野の研究グループは、腎糸球体上皮細胞(タコ足細胞)の特異的形態・形質を培養で再現することに世界で初めて成功しました。
 
【本研究成果のポイント】
・タコ足細胞の特異的形態・遺伝子発現を誘導する培養条件を確立した。
・タコ足細胞の特異的形質の誘導には、生体内と同じ細胞密度、細胞外基質(ラミニン)が必要であることを示した。
・糸球体濾過に関わる細胞間結合の著明な増加を誘導できた。
 
Ⅰ.研究の背景
タコ足細胞は、腎臓の糸球体を覆うユニークな形をした細胞ですが(図1走査型電子顕微鏡写真)、その役割は、大量の糸球体濾過を可能にすることです。糸球体濾過が大量に行われることによって、初めて腎臓は機能することができます。タコ足細胞の形は糸球体濾過の増大に合わせて進化を遂げてきました。核を中心にして数本の突起をのばし、その突起は枝分かれを繰り返し、最終的には足突起と呼ばれる細かい突起になります(図1丸印)。糸球体濾過液は、足突起と足突起の間の細胞間結合部を通って出てきます。数多くの足突起があり、その突起の間に非常に長い細胞間結合部が形成されて、大量の糸球体濾過が可能となります。
タコ足細胞が糸球体濾過を最終的に調節する細胞であることに加え、神経細胞のように細胞分裂を行わず、その傷害が不可逆的糸球体病変の原因になることから、多くの研究者の関心を惹き、さまざまなアプローチから研究が行われてきました。培養もその一つです。糸球体を単離する手技が確立するとすぐにタコ足細胞培養の試みが1970年代から始まり、非常に多くの論文が出されました。しかし、タコ足細胞の特徴的な形は、培養直後から急速に失われ、その再現は今日まで成功していませんでした。例えるならば、神経突起がない培養細胞を神経培養細胞として研究に用いてきたような状態が続いていました。

You can see a large image by click.

 
Ⅱ.研究の概要と成果
単離した糸球体からタコ足細胞を確実に培養できる方法を確立し、過去の論文を参考に特異的遺伝子の発現を増加させる条件を検討しました。また、突起形成は細胞密度の高い条件で起きにくいとされてきましたが、敢えて生体内に近い細胞密度の高い状態で細胞突起ができる条件を探しました。その結果、ヘパリンが単独で特異的遺伝子の発現を著明に亢進させること、ビタミンA誘導体(ATRA)と細胞外基質のラミニンが細胞の運動性と突起形成を促進することを見つけました。これらを組み合わせたところ、突起を盛んに出す状態を作り出すことができました(図2位相差顕微鏡写真、図3走査型電子顕微鏡写真)。従来の方法で培養した場合(図2A、図3A)と比べると、本研究で確立した培養(図2B、図3B)では、枝分かれする突起が四方に伸びだしていることが分かります。
透過型電子顕微鏡(図4)で培養細胞の垂直断面を観察すると、タコ足細胞でよくみられる、細胞の下への二重三重の突起の侵入、終末突起の間の隙間、それを橋渡しする細胞間結合装置(スリット膜)の構造物(矢頭)が認められました。

You can see a large image by click.

さらに、細胞間結合部を示すポドシンの分布(図5)をみると、従来の培養(図5A)では単純な形をした細胞境界ですが、この培養(図5B)ではくねくねと曲がった迷路状になり、細胞間結合部が著明に増えていることが分かりました。
タコ足細胞特異的遺伝子、タンパク質も増加し、単離糸球体での量に匹敵するまでになっていました。
上記のことは、生体内のタコ足細胞に近い状態を再現できたことを示しています。また、同時にタコ足細胞が、ラミニン、コラゲン、ファイブロネクチンなどの細胞外基質の違いを認識し違った挙動をとること、細胞密度が低くなると分化した形質を示さなくなること、突起をのばした細胞は細胞分裂のマーカーを失うことも分かってきました。

You can see a large image by click.

 
Ⅲ.今後の展開
タコ足細胞には、多くの謎が残されています。糸球体濾過を最終的に決めている細胞間結合部の長さ広がりはどのように調節されているのかをはじめ、核分裂は起きても細胞分裂が起きないのはなぜか、様々な受容体が見つかっていますがその機能がわかっていません。本研究の成果は、こうした疑問に答えるための新たな手段を与えるものです。
 
Ⅳ.研究成果の公表
これらの研究成果は、平成29年9月7日のKidney International誌(IMPACT FACTOR 8.395)に掲載されました。
論文タイトル:Induction of interdigitating cell processes in podocyte culture.
著者:Yaoita E, Yoshida Y, Nameta M, Takimoto H, Fujinaka H.
doi: 10.1016/j.kint.2017.06.031.
http://dx.doi.org/10.1016/
 
 
本件に関するお問い合わせ先
新潟大学大学院医歯学総合研究科
腎研究センター腎構造病理学分野
准教授 矢尾板永信
E-mail:eyaoita@med.niigata-u.ac.jp

sp
sp

平成29年10月13日

No_65 新規の神経幹細胞制御因子としてQuaking5の機能を解明 −幅広い精神・神経疾患、癌の病態解明や新薬開発に期待−

このたび、新潟大学大学院医歯学総合研究科神経生物・解剖学分野の矢野真人准教授、矢野佳芳研究員(日本学術振興会特別研究員RPD)と慶應義塾大学医学部の岡野栄之教授の研究グループは、武田薬品工業(株)湘南インキュベーションラボとの共同研究により、新たな神経幹細胞制御因子として、RNA結合タンパク質(注2)であるQuaking5(Qki5,注3)を同定しました。包括的RNAマッピング技術(HITS-CLIP法)(注1)を用い、Qki5が、標的RNAとの結合部位により神経幹細胞を制御する新しい分子メカニズムを解明しました。
中枢神経系は、神経細胞及びグリア細胞(アストロサイトやオリゴデンドロサイト)を中心に構成されています。大脳皮質の形成過程においては、神経幹細胞(注4)が順序立てて多様な神経細胞やグリア細胞を生み出すことが知られており、それが破綻すると多様な精神・神経疾患や癌に繋がると言われています。今回、矢野准教授らの研究グループが新たな神経幹細胞制御因子として同定したQki5は、RNA(リボ核酸)に結合するRNA結合タンパク質の一種であり、神経幹細胞において細胞間接着に関わる分子群のRNAの多様性の制御を介して、胎生期大脳皮質の神経幹細胞の機能保持および神経細胞の産生に重要な役割を果たすことを解明しました。
この成果は、幅広い精神・神経疾患や癌などの病態解明や新薬開発につながることが期待されます。
 
【本研究成果のポイント】
・新規の神経幹細胞制御因子としてRNA結合タンパク質Quaking5(Qki5)を同定した。
・括的RNAマッピング技術を用いてQki5 のRNA結合部位、制御の法則性を解明した。
・Qki5はRNA制御を介して、神経幹細胞の細胞接着を調節し、幹細胞の機能保持および適切な神経細胞の産生に寄与している。
・本研究成果は幅広い精神・神経疾患や癌の病態解明、新規治療法の開発へと波及する。
 
Ⅰ.研究の背景
2017年は、イントロンとスプライシングの発見から40年の節目の年にあたります。mRNAスプライシング(注5)は、多様なタンパク質を生み出す駆動力として、分子メカニズムの基礎研究、様々な疾患の病態解明、さらには難病における新規の治療法開発まで、世界中で研究が発展しています。この分子機構を司るのがRNA結合タンパク質です。
中枢神経系は、神経細胞及びグリア細胞を中心に構成されています。脳の形成過程においては、適切な時期に適切な場所で、順序立ててニューロンやグリア細胞が産み出される必要があります。そのために、自己複製能(幹細胞を維持する能力)と多分化能(様々な種類の細胞に分化能力)を有する神経幹細胞が非常に重要な役割を担っており、胎生期における脳の形成過程の異常は様々な精神・神経疾患や癌などの病気に直結します。
これまでの研究で、神経系の発生過程においてもRNAに結合するタンパク質が重要な働きをしていることが当研究グループらによって明らかにされています。先行研究において、矢野准教授らのグループは、包括的RNAマッピング技術(HITS-CLIP法)を用いて、RNA結合タンパク質Nova2のRNA結合部位を同定しました。そして、多くの結合するmRNAの中でも、Dab1と呼ばれる分子の選択的スプライシング(注5)を制御することにより、神経前駆細胞の移動を正常に保っていることを明らかにし、世界に先駆けて大脳新皮質の形成にRNAの制御が重要であることを明らかにしました。
 
Ⅱ.研究の概要と成果
本研究では、RNA結合タンパク質Qkiが神経幹細胞における機能を調べるため、マウス神経幹細胞を培養し、特定の遺伝子の転写量を減少させるノックダウン法を用いてQkiの発現の抑制を試みました。この状況のもと、mRNA-seq(注6)解析を用いて、神経幹細胞における転写産物を包括的に解析したところ、①Qkiが神経幹細胞の維持に重要な機能を持っていること、さらに②mRNAの選択的スプライシングに働いていることが示唆されました。Qkiファミリーの中でもQki5は、核移行シグナルを持ち、核内イベントであるスプライシングに大きく寄与していることが考えられるため、Qki5に絞り研究をさらに進めました。
胎生期マウスの脳においてQki5の制御機能を明らかにするため、包括的RNAマッピング(HITS-CLIP法)を行い、一塩基解像度で全転写産物における結合部位を突き止め、892個の標的RNAを同定しました。Qki5は標的RNAのタンパク質をコードしていないイントロンと呼ばれる領域に結合し、近傍に存在するたんぱく質をコードしているエクソンの選択性(選択的スプライシングと呼ばれる機構)を制御すること及び選択的スプラシングを制御する法則性を明らかにしました(図1)。

You can see a large image by click.

さらに、892個の直接的な標的RNAを介してどのような生物学的に意義のある細胞機能を調節しているのかを解明するために、ゲノム解読に利用されるバイオインフォマティクス解析を行いました。その結果、Qki5は標的RNAを介して、細胞間接着に関するシグナル経路に収束されることを見出しました。そこで、生体内でQki5が胎生期神経幹細胞で細胞間接着を制御しているかを確認するために、神経系で特異的にQkiを欠損させたマウスの脳を調べました。マウス脳の組織解析の結果、Qkiを欠損したマウスの神経幹細胞ではN-カドヘリンや・-カテニンなど細胞間接着に必須のタンパク質の発現の低下及び局在の変化が見られ、脳室帯に存在する神経幹細胞の細胞間接着に、異常があることが明らかになりました。Qkiを欠損したマウスに比して、正常マウスでは脳室帯に存在するPax6陽性の神経幹細胞が、脳室の管腔側から逸脱、脳室下帯にまで分散し、その周辺領域では異所性の神経細胞の産生が見られました(図2)。

You can see a large image by click.

Qkiを欠損したマウスの神経幹細胞では、どの細胞間接着に関わる標的RNAのスプラシングに変化があるのか、分子群の増幅量を解析するqRT-PCR法で調べたところ、神経幹細胞性の維持に重要な経路の分子群であるTncやPtprz1、さらに癌細胞の糖代謝にも関連するPkmのスプライシング異常が見られ、その結果、神経幹細胞の細胞接着に異常を来たしていることが明らかになりました(図3)。

You can see a large image by click.

以上の結果から、Qki5が胎生期神経幹細胞においてRNAを制御し、細胞間接着を調節することで神経幹細胞の適切な機能の保持に働いていることが、世界に先駆けて明らかとなりました。
本研究は、主に武田薬品工業株式会社湘南インキュベーションラボラトリー(SIL)及び文部科学省(MEXT)/日本学術振興会(JSPS) 新学術領域「ノンコーディングRNAネオタクソノミ」などの助成を受けて実施されました。
 
【用語説明】
(注1)HITS-CLIP(high-throughput sequencing UV cross-linking and immunoprecipitation)
包括的RNA-タンパク質相互作用部位マッピング技術。ゲノムから転写された全転写産物のどこにRNA結合タンパク質が結合しているかを生体内において捉え、一塩基レベルの解像度で結合配列を明らかにすることができる方法。
 
(注2)RNA結合タンパク質
RNA(リボ核酸)に結合するタンパク質群の総称。ヒトでは1542種存在することが知られている。
 
(注3)Quaking
KHタイプのRNA結合タンパク質。選択的スプライシングによりQki5、QKi6、Qki7の異なるアイソフォーム(同一遺伝子より産生され、一部の構造、機能が異なると推測されるタンパク質)が存在する。RNAに結合することでmRNAの選択的スプライシング(成熟したmRNAが作られる機構)、安定化、翻訳制御、miRNA、ciRNAの生合成を制御している。これまでに、神経系ではグリア細胞の一つであるオリゴデンドロサイトの細胞系譜における機能が詳しく解析されてきた。
 
(注4)神経幹細胞
神経系の組織幹細胞。自己複製能(幹細胞を維持する能力)と多分化能(様々な種類の細胞に分化する能力)を有する。順序立てて多様な神経系の細胞を産み出し、神経系の構築および維持に重要な役割を持つ。
 
(注5)スプライシング
ゲノムDNAの遺伝子には、たんぱく質をコードしているエクソンと呼ばれる領域がたんぱく質をコードしていないイントロンと呼ばれるに領域によって分断されている構造が存在する。ゲノムDNAからRNAに転写されたのちに、不要なイントロンが除去され成熟したmRNAが作られる機構をスプライシングと呼ぶ。エクソンは常に選択されてたんぱく質に翻訳される恒常的エクソンとスプライシングを行う部位や組み合わせが変化する選択的エクソンが存在する。その選択的エクソンを制御する機構が選択的スプラシングであり、機能的たんぱく質の多様性に寄与している。
 
(注6)RNA-seq(RNAシークエンス)
次世代シークエンス法を用いて全転写産物の配列情報をバイアスなく読み込み、発現量を定量する方法。
 
Ⅲ.今後の展開
本研究成果はQki5が新規の神経幹細胞の制御因子であり、神経幹細胞の機能にかかわることを明らかにしたことから、幅広い神経疾患や癌の病態解明や新規治療法の開発へと波及することが考えられます。
 
Ⅳ.研究成果の公表
これらの研究成果は、本研究成果は平成29年10月12日4時(日本時間)に、米国コールド・スプリング・ハーバー研究所が出版する生物学に関する学術雑誌「Genes & Development」誌のAdvanced online版に掲載されました。
論文タイトル:An RNA-binding protein Qki5 regulates embryonic neural stem cells through pre-mRNA processing in cell adhesion signaling
(邦訳:RNA結合蛋白質Qki5は、細胞接着シグナルに関わるmRNAスプライシングを担うことにより、胎生期神経幹細胞を制御している)
著者:矢野(早川)佳芳*、陶山智史*、野上真宏、湯上真人、古家育子、周麗、阿部学、崎村健司、竹林浩秀、中西淳、岡野栄之**、矢野真人**(*共同筆頭著者 **共同責任著者)
doi:http://www.genesdev.org/cgi/doi/10.1101/gad.300822.117.
 
 
本件に関するお問い合わせ先
新潟大学大学院医歯学総合研究科
神経生物・解剖学分野
准教授 矢野 真人(やの まさと)
E-mail:myano@med.niigata-u.ac.jp

慶應義塾大学医学部生理学教室
教授 岡野 栄之(おかの ひでゆき)
E-mail:hidokano@a2.keio.jp

sp
sp

平成29年10月04日

No_64 コンドロイチンが大脳の柔軟性を制御する−脳内コンドロイチンによる神経回路の成長促進−

新潟大学の研究グループは、脳内のコンドロイチン硫酸(CS)の量に応じて神経回路の成長期が制御されることを、世界で初めて発見しました。軟骨の成分としても知られるコンドロイチン硫酸は一般に「コンドロイチン」と呼ばれる物質とほぼ同様の物質で、脳内にも豊富に含まれています。大人の脳に含まれる多量のコンドロイチン硫酸は、神経の成長を抑制的に調節することが知られています。コンドロイチン硫酸は子どもの脳にも少量含まれていますが、その作用は不明でした。今回、脳内コンドロイチン硫酸が異常に減少するマウスを解析することにより、少量のコンドロイチン硫酸には抑制性神経細胞(注1)の働きを活発にさせ、子どもの脳の成長期を促す作用があることを明らかにしました。医歯学総合研究科 神経発達学分野 杉山清佳准教授、侯旭濱特任助教、分子細胞機能学分野 五十嵐道弘教授らによる研究成果です。
 
【本研究成果のポイント】
・少量のコンドロイチン硫酸は体験・経験を介した脳の成長期「臨界期」の誘導に必要である
・大脳のコンドロイチン硫酸の生成にはCSgalnacT1遺伝子が働く
・大脳の抑制性神経細胞異常を原因とする病気の新治療法開発に有益
 
Ⅰ.研究の背景
一般的に子供の頃に音楽やスポーツ、外国語などを習い始めると、大人になってから始める場合と比べ上達・習得が早いことを、私たちは経験則として知っています。子ども脳には、個々の体験・経験に依存して、神経回路を活発に作る成長期(=「臨界期」)があります。
子どもの視力が発達する際にも、臨界期は重要な役割を果たします。両目で見た情報は大脳の視覚野に送られます。臨界期に片目をふさいで見る経験を遮断すると、ふさいだ目からの情報よりも、開いた目からの情報を多く受け取るように、視覚野の神経回路が作り変えられます。その結果、ふさいだ目の視力は著しく弱くなり(弱視)、臨界期を過ぎた大人になってから治療しても回復しないことが知られています。逆にふさいだ目の視力を回復するためには、神経回路が作り変えられる臨界期のうちに治療を施す必要があります。しかしながら、どのような仕組みで子ども脳にのみ臨界期が現れ、またなぜ大人の脳には臨界期がないのか、いまだに分からない点が多くあります。
 
Ⅱ.研究の内容
これまでに研究グループは、大脳の抑制性神経細胞の成熟とともに、臨界期が現れることを明らかにしています。車がブレーキとアクセルの適切な組み合わせで安全に運転できるのと同じように、抑制性神経細胞(ブレーキ)が的確に興奮性神経細胞(アクセル)を制御してこそ、脳の神経回路は機能的に作られます。それでは、抑制性神経細胞は、どのような仕組みで成熟するのでしょうか?
大脳のPV細胞(抑制性神経細胞の1つ、注2)の周囲には、細胞の成熟とともにコンドロイチン硫酸を豊富に含む網目構造が構築されます(図1)。この網目構造は、大人の脳において神経回路の形成を抑制することが報告されています。一方、臨界期の子ども脳においても、コンドロイチン硫酸はPV細胞の周囲に少量ながら存在しています。研究グループは、脳内コンドロイチン硫酸を減少させたマウス(CSgalnacT1遺伝子欠損マウス、注3)の解析により、少量のコンドロイチン硫酸が臨界期の誘導に必要不可欠であることを明らかにしました(図2)。これまで、臨界期の回路形成の誘導と抑制には、それぞれ異なった分子メカニズムが働くと推測されていましたが、今回の研究により、同じ分子であるコンドロイチン硫酸の量により制御されることが示されました。さらに、2光子顕微鏡を用いて、目に光を当てた際の視覚野のPV細胞の応答(ブレーキ機能)を計測すると、コンドロイチン硫酸の異常な減少により応答が減弱することが分りました(図3)。そのため、このマウスにPV細胞の機能を高める薬(ジアゼパム)を投与すると、1回目の投与により臨界期の始まりを、2回目の投与により臨界期の終わりを、それぞれ正常に導くことができました(図4)。
コンドロイチン硫酸はタンパク質に付加してプロテオグリカンという構造として体内に存在しており、脳内ではアグリカンというタンパク質と多く結合しています。本研究では、コンドロイチン硫酸-アグリカンがPV細胞を成熟させる作用を持つOtx2タンパク質(注4)と結合し、Otx2をPV細胞に蓄積させることが分りました(図4)。また逆に、Otx2は、PV細胞においてアグリカンの量を増加させる作用を持つことが示唆されました。臨界期は生涯に一度だけの特別な脳の成長期であり、一度誘導されると、一定期間の後に抑制されます。今回の発表により、Otx2を介した脳内コンドロイチン硫酸の量の調節が臨界期の始まりと終わりのタイミングを決める、タイマーの役割を果たすことが明らかになりました。
 
Ⅲ.社会的意義・今後の展開
臨界期は、神経回路が個々の経験を元に集中的に作られる、脳の成長期と考えられ、近年の早期教育を促す根拠の1つになっています。一方で、臨界期が現れる仕組みには分らないところが多く、臨界期を制御する遺伝子を解明することが重要です。臨界期を制御する遺伝子の全容が明らかになれば、弱視の治療を含め、大人の脳に臨界期を安全に誘導することで、疾患からの脳機能の再建など、新しい治療法の開発に役立つことが期待されます。本研究では、コンドロイチン硫酸の量を増減させることにより、臨界期をコントロールすることができました。
近年、臨界期やPV細胞の機能異常が、精神疾患(自閉症、統合失調症など)の一因となることが示唆されています。さらに、精神疾患の誘因とPV細胞の周囲に蓄積するコンドロイチン硫酸との関連が報告されつつあるため、将来的には、コンドロイチン硫酸によるPV細胞の機能の改善が、精神疾患の症状の軽減に繋がることも期待されます。

You can see a large image by click.

You can see a large image by click.

You can see a large image by click.

用語解説
注1:抑制性神経細胞
GABA(あるいはグリシン)作動性神経細胞。興奮性神経細胞がシナプス結合を介して次の神経細胞に興奮を伝播するのに対して、興奮を抑制し、伝播を遮断する役割を持つ。大脳や記憶を司る海馬では、このような抑制性神経細胞は十種類以上存在することが知られている。
 
注2:PV細胞
カルシウム結合タンパク質である Parvalbumin(PV)を含有する抑制性神経細胞。大脳視覚野では抑制性神経細胞の約5割を占める。非常に早い頻度でGABAを放出する特性を持ち、興奮の伝播を抑えるために、強い抑制能を持つことが知られる。
 
注3:CSgalnacT1遺伝子
コンドロイチン硫酸は鎖のようにつながって、特定のタンパク質に結合してプロテオグリカンを形成する。コンドロイチン硫酸を合成する過程で必要な酵素は十数種類存在しており、CSgalnacT1遺伝子は、酵素の中でも重要なCSGalNAcT1転移酵素をコードする。実際に、この遺伝子を欠くマウスではコンドロイチン硫酸が著しく減少するため、生体内におけるコンドロイチン硫酸の生成・維持に寄与すると考えられる。
 
注4:Otx2タンパク質
DNA結合領域(ホメオボックス)を持つホメオタンパク質ファミリーの1つで、遺伝子発現の調節を司る転写因子に属する。Otx2ホメオタンパク質は、胎児の脳の形成に必要不可欠な分子として知られているが、筆者らは、生後の脳の成長にも必須であることを示した(http://www.riken.jp/~/media/riken/pr/press/2008/20080808_1/20080808_1.pdf)。特に、大脳においてPV細胞の機能を正常に発達させ、コンドロイチン硫酸と協調して、臨界期の誘導と抑制に作用する。
 
Ⅳ.研究成果の公表
これらの研究成果は、平成29年10月3日午後6時(日本時間)のScientific Reports誌に掲載されました。
論文タイトル:Chondroitin Sulfate Is Required for Onset and Offset of Critical Period Plasticity in Visual Cortex
著者:Hou X, Yoshioka N, Tsukano H, Sakai A, Miyata S, Watanabe Y, Yanagawa Y, Sakimura K, Takeuchi K, Kitagawa H, Hensch TK, Shibuki K, Igarashi M and Sugiyama S
 
 
本件に関するお問い合わせ先
新潟大学大学院医歯学総合研究科
神経発達学分野 杉山清佳 准教授
E-mail:sugiyama@med.niigata-u.ac.jp
 
新潟大学大学院医歯学総合研究科
分子細胞機能学分野 五十嵐道弘 教授
E-mail:tarokaja@med.niigata-u.ac.jp

sp
sp

平成29年09月20日

No_63 共用試験臨床実習後OSCEが実施されました

平成29年9月9日(土)13:00〜17:35まで臨床技能教育センターの3階と4階において6年生127名に対する診療参加型臨床実習後OSCEが実施されました。
 
試験課題に共用試験実施評価機構から提供されたトライアル課題が含まれていました。試験課題はむつかしいものでしたが、6年生全員が真剣に取り組んでいました。
 
平成32年(2020年)からは全国82医学部において医師国家試験OSCEに準じた試験として共用試験診療参加型臨床実習後OSCEが実施されることになっています。今回の試験はその準備を兼ねて実施されました。
 

You can see a large image by click.

sp
sp

平成29年08月10日

No_62 「薬」の振る舞いと効きめを体内で測る新技術 針状“ダイヤモンド電極センサー”を使って開発 −さまざまな病気の治療法や創薬に期待−

【本研究成果のポイント】
・薬は体に入ると、脳など全身の臓器に運ばれます。各臓器は、役目の異なった細胞の“小さな”かたまりが多数集まってできています。薬の濃度は、それぞれのかたまりの中で刻々と移り変わっていきます。この薬の振る舞いと細胞の働きの変化は、薬の効能に深く関わりますが、今まで測ることができませんでした。
・本研究では、これらの同時計測に、針状に加工した「ダイヤモンド電極センサー」を使った新開発の薬物モニターシステムにより、実験動物で成功しました。世界初です。
・この技術は、副作用を抑えて効果を最大にする投薬法や、安心・安全・有効な創薬を発展させます。
 
新潟大学大学院医歯学総合研究科・超域学術院の日比野浩教授および緒方元気助教らと慶應義塾大学理工学部の栄長泰明教授らの合同研究チームは、針状の「ダイヤモンド電極センサー」(図1)を用いた薬物モニターシステムを開発しました。そして、東京大学大学院薬学系研究科の楠原洋之教授、同工学系研究科の高井まどか教授のチームと共に、生きた動物の脳や内耳において、極めて狭い空間(1ミリ以下)でのさまざまな「薬」の振る舞いとその作用を、リアルタイム計測することに世界で初めて成功しました。この成果は、8月10日に科学雑誌 Nature Biomedical Engineering(2017年1月創刊:採択率6%以下)のオンライン版に掲載されます。
 
Ⅰ.研究の背景
口や注射により体内に入った薬は、脳や心臓をはじめとしたあらゆる臓器に行き渡ります。どの臓器も、性質や役割が異なった細胞の“小さな”かたまりがいくつも集まってできていますが、病気の多くはその一部が悪くなることで起こります。薬が標的とする細胞のかたまりに届いているかどうか、そして、薬が届いた場合、その“濃度”と“細胞の働き”が時間とともにどのように移り変わっていくか、を知ることは、薬の効果や副作用を調べるうえで非常に重要です。しかし、意外にも、極めて狭い空間では、これらの指標を今までの方法で測ることができませんでした。
 
Ⅱ.研究の成果
以上の困難な測定を動物実験レベルで世界で初めて実現したのが、ホウ素を含んだ特殊な「ダイヤモンド」を用いた本研究の新技術です。この最先端素材により創った電極は、優れた特性を示し、さまざまな物質に対する次世代センサーとして期待できることを、栄長教授は以前より報告してきていました。
細胞のかたまりは、1ミリに満たないものも多くあります。日比野教授らが中心となり新たに開発した薬物モニターシステムは、二つのセンサーから成ります。一つは、先のサイズが1ミリの25分の1(40 μm)である「針状ダイヤモンド電極センサー」(図1)であり、これで薬の濃度を敏感に測ります。ダイヤモンドの使用には大きな理由があり、後述します。もう一つの「微小ガラス電極センサー」(図2)は、先が1ミリの1000分の1(1 μm)で、細胞の電気信号を直接観察することができます。病院や薬局で処方される薬の約15%は、この電気信号を特定の臓器で強めたり弱めたりします。
これら二つのセンサーを細胞のかたまりの近くに入れることにより、日比野教授は刻々と変わる薬の振る舞いと細胞の働きを、“同時にリアルタイムで”モニターすることに成功しました。
図3は、抗てんかん薬ラモトリギンをラットに静脈注射した際の“脳”での反応です。右パネルが実験結果です。ラモトリギンの濃度(紫)が上がりはじめると同時に、神経細胞の電気活動(赤)が強く抑えられています。その後、薬はゆっくり推移し、投与後15分ほどで減少に転じていくこともわかります。
図4は、高血圧の治療に使われる利尿薬ブメタニドをモルモットに与えた際の“内耳”での反応です。内耳は鼓膜(こまく)の奥にあり、音を電気信号へ変えて脳へと運ぶカタツムリ型の臓器です(図4左)。ブメタニドは、時に内耳の電気活動を悪くして難聴を起こします。右パネルが測定結果です。ブメタニドを静脈注射すると、この薬の濃度(緑)が急に上がり、投与後1分余りですぐに下がっていくのがわかります。同時に測った内耳細胞の電気活動(赤)は、ブメタニドの濃度がピークになったころから低下していきます。また、薬の変化の様子は、図3と図4で明らかに違います。
抗がん剤ドキソルビシンの振る舞いも、モルモットの体内で測ることができました。さらに、この薬物モニターシステムは、さまざまな抗がん剤、抗うつ薬、抗生剤の計測にも使える可能性があることもわかりました。工夫をすれば、心臓や腎臓などでも測定できると考えています。したがって、汎用性の高い技術です。
本研究で極めて重要な点の一つは、薬のセンサーに「ダイヤモンド」を使ったことです。一般に、電極センサーで水に溶けた物質を測る場合には、それぞれの物質にとって理想的な電圧条件を探します。時に、物質の反応(酸化還元反応)に加えて、水の反応(水の電気分解)が起こってしまいます。必要な成分は、物質の反応です。予備実験で、通常の材料であるカーボン(炭素)をセンサーに用いてみると、水の反応が大きすぎて、薬の反応がかなり隠れてしまい、よくわかりませんでした。白金や金などの素材も、それらの性質から、同じ問題が考えられました。しかし、ダイヤモンドを利用すると、水の反応が起こりにくく、薬の濃度に比例した電極センサーの反応がきれいに観察できたのです。また、電極センサー自身が持つノイズを比べても、ダイヤモンドの場合は非常に低い特徴があります。したがって、複雑な脳や内耳でも、少ない量の薬を鋭敏に測れることがわかりました。ダイヤモンドは、細胞の原料となる炭素が変化したものなので、体にやさしい素材です。また、特殊な分子構造を持つため、汚れがつきにくく安定した反応がえられます。これらの性質により、体内での計測に、近い将来、欠かせないものになると期待されてきましたが、今回、医・工・薬の異分野融合研究により薬の計測への応用が示されました。
 
本研究では、日比野教授らが、自身が得意とする「微小ガラス電極センサー」を、栄長教授が開発・工夫した「針状ダイヤモンド電極センサー」と組み合わせたことで、薬の振る舞いと効きめを体内で計測する革新的システムが誕生しました。“コロンブスの卵”的な発想です。

You can see a large image by click.

You can see a large image by click.

You can see a large image by click.

Ⅲ.今後の展開
本研究で開発した技術を活用・応用すれば、以下のような波及効果が見込まれます。
(1)安心・安全・有効な創薬の発展。
(2)副作用をできるだけ抑え、薬効を最大にする薬の投与法の考案。
(3)ドラックリポジショニング(註1)の推進。
 (註1)特定の病気に効く既存薬から、別の病気に効く薬を見つけだすこと。
(4)オーダーメイド治療法の展開。
これらの展望は、針状ダイヤモンド電極センサーの性能を上げ、細胞の信号を観測するさまざまなセンサーと組み合わせていくことで、ますます現実的になっていきます。
 
論文タイトル:A microsensing system for the in vivo real-time detection of local drug kinetics
著者:Genki Ogata, Yuya Ishii, Kai Asai, Yamato Sano, Fumiaki Nin, Takamasa Yoshida, Taiga Higuchi, Seishiro Sawamura, Takeru Ota, Karin Hori, Kazuya Maeda, Shizuo Komune, Katsumi Doi, Madoka Takai, Ian Findlay, Hiroyuki Kusuhara, Yasuaki Einaga*, and Hiroshi Hibino*(*共同責任著者)
Nature Biomedical Engineering
DOI: 10.1038/s41551-017-0118-5
■図1, 3, 4は、上記論文から転載
 
なお、薬物モニターシステムの開発は、公益財団法人 中谷医工計測振興財団 技術開発研究助成【特別研究】の研究課題「ダイヤモンド微小電極を駆使した内耳薬物動態の計測基盤の開発(研究代表者:日比野浩(新潟大学大学院 医歯学総合研究科 教授))」の支援により行われました。また、ダイヤモンド電極センサーの研究開発は、国立研究開発法人 科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業 ACCELの研究開発課題「ダイヤモンド電極の物質科学と応用展開(研究代表者:栄長 泰明(慶應義塾大学 理工学部 教授)、プログラムマネージャー:塚原 信彦(JST))」の一環として行われました。
 
 
本件に関するお問い合わせ先
新潟大学大学院医歯学総合研究科(医学部)
教授 日比野浩
E-mail:hibinoh@med.niigata-u.ac.jp

sp
sp

平成29年07月31日

No_61 日本初となる、肝硬変を対象とした他家脂肪組織由来幹細胞製剤の治験を開始します

本学大学院医歯学総合研究科消化器内科学分野の寺井崇二教授とロート製薬株式会社は、新しい治療方法の開発が望まれている肝硬変を対象とした再生医療研究開発を進めてきました。
 
この度、日本初の肝硬変を対象とした他家脂肪組織由来幹細胞製剤 ADR-001 の治験を、治験責任医師の寺井教授と本学医歯学総合病院にて開始いたします。
 
詳しくはこちら(新潟大学ホームページ)をご覧ください。

sp

このページのトップへ

sp

←BACK

NEXT→

sp
sp