新潟大学医学部医学科

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平成29年09月20日

No_63 共用試験臨床実習後OSCEが実施されました

平成29年9月9日(土)13:00〜17:35まで臨床技能教育センターの3階と4階において6年生127名に対する診療参加型臨床実習後OSCEが実施されました。
 
試験課題に共用試験実施評価機構から提供されたトライアル課題が含まれていました。試験課題はむつかしいものでしたが、6年生全員が真剣に取り組んでいました。
 
平成32年(2020年)からは全国82医学部において医師国家試験OSCEに準じた試験として共用試験診療参加型臨床実習後OSCEが実施されることになっています。今回の試験はその準備を兼ねて実施されました。
 

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平成29年08月10日

No_62 「薬」の振る舞いと効きめを体内で測る新技術 針状“ダイヤモンド電極センサー”を使って開発 −さまざまな病気の治療法や創薬に期待−

【本研究成果のポイント】
・薬は体に入ると、脳など全身の臓器に運ばれます。各臓器は、役目の異なった細胞の“小さな”かたまりが多数集まってできています。薬の濃度は、それぞれのかたまりの中で刻々と移り変わっていきます。この薬の振る舞いと細胞の働きの変化は、薬の効能に深く関わりますが、今まで測ることができませんでした。
・本研究では、これらの同時計測に、針状に加工した「ダイヤモンド電極センサー」を使った新開発の薬物モニターシステムにより、実験動物で成功しました。世界初です。
・この技術は、副作用を抑えて効果を最大にする投薬法や、安心・安全・有効な創薬を発展させます。
 
新潟大学大学院医歯学総合研究科・超域学術院の日比野浩教授および緒方元気助教らと慶應義塾大学理工学部の栄長泰明教授らの合同研究チームは、針状の「ダイヤモンド電極センサー」(図1)を用いた薬物モニターシステムを開発しました。そして、東京大学大学院薬学系研究科の楠原洋之教授、同工学系研究科の高井まどか教授のチームと共に、生きた動物の脳や内耳において、極めて狭い空間(1ミリ以下)でのさまざまな「薬」の振る舞いとその作用を、リアルタイム計測することに世界で初めて成功しました。この成果は、8月10日に科学雑誌 Nature Biomedical Engineering(2017年1月創刊:採択率6%以下)のオンライン版に掲載されます。
 
Ⅰ.研究の背景
口や注射により体内に入った薬は、脳や心臓をはじめとしたあらゆる臓器に行き渡ります。どの臓器も、性質や役割が異なった細胞の“小さな”かたまりがいくつも集まってできていますが、病気の多くはその一部が悪くなることで起こります。薬が標的とする細胞のかたまりに届いているかどうか、そして、薬が届いた場合、その“濃度”と“細胞の働き”が時間とともにどのように移り変わっていくか、を知ることは、薬の効果や副作用を調べるうえで非常に重要です。しかし、意外にも、極めて狭い空間では、これらの指標を今までの方法で測ることができませんでした。
 
Ⅱ.研究の成果
以上の困難な測定を動物実験レベルで世界で初めて実現したのが、ホウ素を含んだ特殊な「ダイヤモンド」を用いた本研究の新技術です。この最先端素材により創った電極は、優れた特性を示し、さまざまな物質に対する次世代センサーとして期待できることを、栄長教授は以前より報告してきていました。
細胞のかたまりは、1ミリに満たないものも多くあります。日比野教授らが中心となり新たに開発した薬物モニターシステムは、二つのセンサーから成ります。一つは、先のサイズが1ミリの25分の1(40 μm)である「針状ダイヤモンド電極センサー」(図1)であり、これで薬の濃度を敏感に測ります。ダイヤモンドの使用には大きな理由があり、後述します。もう一つの「微小ガラス電極センサー」(図2)は、先が1ミリの1000分の1(1 μm)で、細胞の電気信号を直接観察することができます。病院や薬局で処方される薬の約15%は、この電気信号を特定の臓器で強めたり弱めたりします。
これら二つのセンサーを細胞のかたまりの近くに入れることにより、日比野教授は刻々と変わる薬の振る舞いと細胞の働きを、“同時にリアルタイムで”モニターすることに成功しました。
図3は、抗てんかん薬ラモトリギンをラットに静脈注射した際の“脳”での反応です。右パネルが実験結果です。ラモトリギンの濃度(紫)が上がりはじめると同時に、神経細胞の電気活動(赤)が強く抑えられています。その後、薬はゆっくり推移し、投与後15分ほどで減少に転じていくこともわかります。
図4は、高血圧の治療に使われる利尿薬ブメタニドをモルモットに与えた際の“内耳”での反応です。内耳は鼓膜(こまく)の奥にあり、音を電気信号へ変えて脳へと運ぶカタツムリ型の臓器です(図4左)。ブメタニドは、時に内耳の電気活動を悪くして難聴を起こします。右パネルが測定結果です。ブメタニドを静脈注射すると、この薬の濃度(緑)が急に上がり、投与後1分余りですぐに下がっていくのがわかります。同時に測った内耳細胞の電気活動(赤)は、ブメタニドの濃度がピークになったころから低下していきます。また、薬の変化の様子は、図3と図4で明らかに違います。
抗がん剤ドキソルビシンの振る舞いも、モルモットの体内で測ることができました。さらに、この薬物モニターシステムは、さまざまな抗がん剤、抗うつ薬、抗生剤の計測にも使える可能性があることもわかりました。工夫をすれば、心臓や腎臓などでも測定できると考えています。したがって、汎用性の高い技術です。
本研究で極めて重要な点の一つは、薬のセンサーに「ダイヤモンド」を使ったことです。一般に、電極センサーで水に溶けた物質を測る場合には、それぞれの物質にとって理想的な電圧条件を探します。時に、物質の反応(酸化還元反応)に加えて、水の反応(水の電気分解)が起こってしまいます。必要な成分は、物質の反応です。予備実験で、通常の材料であるカーボン(炭素)をセンサーに用いてみると、水の反応が大きすぎて、薬の反応がかなり隠れてしまい、よくわかりませんでした。白金や金などの素材も、それらの性質から、同じ問題が考えられました。しかし、ダイヤモンドを利用すると、水の反応が起こりにくく、薬の濃度に比例した電極センサーの反応がきれいに観察できたのです。また、電極センサー自身が持つノイズを比べても、ダイヤモンドの場合は非常に低い特徴があります。したがって、複雑な脳や内耳でも、少ない量の薬を鋭敏に測れることがわかりました。ダイヤモンドは、細胞の原料となる炭素が変化したものなので、体にやさしい素材です。また、特殊な分子構造を持つため、汚れがつきにくく安定した反応がえられます。これらの性質により、体内での計測に、近い将来、欠かせないものになると期待されてきましたが、今回、医・工・薬の異分野融合研究により薬の計測への応用が示されました。
 
本研究では、日比野教授らが、自身が得意とする「微小ガラス電極センサー」を、栄長教授が開発・工夫した「針状ダイヤモンド電極センサー」と組み合わせたことで、薬の振る舞いと効きめを体内で計測する革新的システムが誕生しました。“コロンブスの卵”的な発想です。

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Ⅲ.今後の展開
本研究で開発した技術を活用・応用すれば、以下のような波及効果が見込まれます。
(1)安心・安全・有効な創薬の発展。
(2)副作用をできるだけ抑え、薬効を最大にする薬の投与法の考案。
(3)ドラックリポジショニング(註1)の推進。
 (註1)特定の病気に効く既存薬から、別の病気に効く薬を見つけだすこと。
(4)オーダーメイド治療法の展開。
これらの展望は、針状ダイヤモンド電極センサーの性能を上げ、細胞の信号を観測するさまざまなセンサーと組み合わせていくことで、ますます現実的になっていきます。
 
論文タイトル:A microsensing system for the in vivo real-time detection of local drug kinetics
著者:Genki Ogata, Yuya Ishii, Kai Asai, Yamato Sano, Fumiaki Nin, Takamasa Yoshida, Taiga Higuchi, Seishiro Sawamura, Takeru Ota, Karin Hori, Kazuya Maeda, Shizuo Komune, Katsumi Doi, Madoka Takai, Ian Findlay, Hiroyuki Kusuhara, Yasuaki Einaga*, and Hiroshi Hibino*(*共同責任著者)
Nature Biomedical Engineering
DOI: 10.1038/s41551-017-0118-5
■図1, 3, 4は、上記論文から転載
 
なお、薬物モニターシステムの開発は、公益財団法人 中谷医工計測振興財団 技術開発研究助成【特別研究】の研究課題「ダイヤモンド微小電極を駆使した内耳薬物動態の計測基盤の開発(研究代表者:日比野浩(新潟大学大学院 医歯学総合研究科 教授))」の支援により行われました。また、ダイヤモンド電極センサーの研究開発は、国立研究開発法人 科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業 ACCELの研究開発課題「ダイヤモンド電極の物質科学と応用展開(研究代表者:栄長 泰明(慶應義塾大学 理工学部 教授)、プログラムマネージャー:塚原 信彦(JST))」の一環として行われました。
 
 
本件に関するお問い合わせ先
新潟大学大学院医歯学総合研究科(医学部)
教授 日比野浩
Tel:025-227-2071, 2073
Fax:025-227-0460
E-mail:hibinoh@med.niigata-u.ac.jp

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平成29年07月31日

No_61 日本初となる、肝硬変を対象とした他家脂肪組織由来幹細胞製剤の治験を開始します

本学大学院医歯学総合研究科消化器内科学分野の寺井崇二教授とロート製薬株式会社は、新しい治療方法の開発が望まれている肝硬変を対象とした再生医療研究開発を進めてきました。
 
この度、日本初の肝硬変を対象とした他家脂肪組織由来幹細胞製剤 ADR-001 の治験を、治験責任医師の寺井教授と本学医歯学総合病院にて開始いたします。
 
詳しくはこちら(新潟大学ホームページ)をご覧ください。

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平成29年07月12日

No_60 「損傷した肝細胞を排除する仕組みを発見」−肝臓を構成する細胞の品質管理による恒常性維持機構−

消化器内科学分野の寺井崇二教授が東京医科歯科大学 仁科博史教授らと行った共同研究により、損傷した肝細胞を排除する仕組みが発見されました。
この研究成果は、国際科学誌 Nature Communications に、2017年7月6日午前10時(英国時間)にオンライン版で発表されました。
 
Miyamura N, Hata S, Itoh T, Tanaka M, Nishio M, Itoh M, Ogawa Y, Terai S, Sakaida I, Suzuki A, Miyajima A, Nishina H. YAP determines the cell fate of injured mouse hepatocytes in vivo. Nat Commun. 2017 Jul 6;8:16017.
doi: 10.1038/ncomms16017. PubMed PMID: 28681838.
掲載URL:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/28681838
 
東京医科歯科大学のプレスリリース
http://www.tmd.ac.jp/archive-tmdu/kouhou/20170706_2.pdf

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平成29年06月23日

No_59 脳卒中後に出現する第2の貪食(どんしょく)細胞「貪食性アストロサイト」の発見 −脳卒中の予後・治療に期待−

概要
山梨大学医学部薬理学講座 小泉修一教授及び森澤陽介研究員(研究当時、現東北大学助教)らの研究グループは、生理学研究所 鍋倉淳一教授、大野伸彦准教授(現自治医科大学)、慶應義塾大学医学部 岡野栄之教授、新潟大学大学院医歯学総合研究科 竹林浩秀教授、群馬大学生体調節研究所 佐藤幸市准教授とのチームと共同で、マウスを使った実験によって、脳卒中(脳梗塞)による傷害後期に、これまでおとなしい神経組織の支持細胞と考えられてきた「グリア細胞¹」の一種、アストロサイト²が貪食能³を獲得し(貪食性アストロサイト)、死細胞断片などの不要物質を貪食する(食べる)ことにより脳内から除去すること、およびその分子メカニズムの一端を明らかにしました。これらの働きは主に、神経機能の回復に重要と考えられている時期および場所(梗塞辺縁部(ペナンブラ)⁴)で観察されたことから、脳梗塞後の組織の修復及び再構築と大きく関与し、脳梗塞の予後に影響している可能性が示唆されました。
本研究成果は、Nature Communications誌に掲載されました(日本時間平成29年6月22日午後6時 オンライン版掲載)。
 
背景
脳卒中は脳梗塞、脳出血及びくも膜下出血等からなる脳血管障害で、国内の患者数、約120万人の重篤な疾患です。我が国死亡原因の第4位を占め、また一命をとりとめたのちも、重篤な後遺症(片麻痺、運動・意識障害、失語、疼痛)に悩まされる患者さんは多く、その予防、治療、さらにより良好な予後を確保する戦略が医学的にも社会的にも重要な課題になっています。脳血管障害で、最も割合の多い疾患が脳梗塞です。脳梗塞は、脳血管が詰まって脳血流が滞ることで(虚血)、酸素・栄養が神経細胞に届かなくなるために、脳が傷害され、やがて死に至る疾患です。素早く血流を確保することが最も重要ですが、血流を再開させた後に脳機能がうまく回復しなかったり、脳の機能障害が徐々に進行する等、未解決の問題が多く、またこれらに対する有効な治療法は非常に乏しいのが現状です。脳梗塞により引き起こされる脳内の分子病態を正確に理解し、新たな治療戦略・治療法の開発を確立することが急務であると言えます。
脳梗塞による傷害を免れた脳部位を、上手に保護し回復させるためには、血流の確保に加えて、脳梗塞により惹起された種々のダメージを取り除き、脳内環境を整える必要があります。これまで、このような役割を担う細胞は、ミクログリア⁵と呼ばれる脳内免疫担当細胞であると考えられていました。ミクログリアは、非常に応答性が早い細胞で、様々な脳の疾患、外傷、さらに感染により異物が脳内に侵入した場合は、素早く当該部位へ集まり、死細胞及び死細胞から流出する有害物質、異物などを食べて除去します。ミクログリアは、完全に死んでしまった神経細胞等を取り除くためには重要な細胞ですが、脳梗塞後のペナンブラ領域(梗塞の辺縁部)等、今後の回復が期待される脳部位での、細胞修復や環境整備に関係しているかどうかはよく分かっていませんでした。今回、アストロサイトと呼ばれる別のグリア細胞が、このペナンブラ領域で、貪食性を獲得し、「貪食性アストロサイト」に変化することが明らかになりました。アストロサイトは、神経細胞や血管周囲に豊富に存在し、神経細胞を物理的に支持したり、血管からの栄養を神経細胞に伝える重要な役割を担っている細胞です。今回このアストロサイトが、脳梗塞後に貪食能を獲得することで、第2の貪食細胞として、ペナンブラ領域の環境整備、脳の修復に関与している可能性が明らかになりました。
 
研究成果
今回、研究チームは、マウスの脳卒中モデルである、一過性脳梗塞モデル⁶を用いて、これまでおとなしい神経組織の支持細胞と考えられてきたアストロサイトが、脳梗塞後に「貪食性アストロサイト」に変身し、傷害された神経細胞やその突起、さらにシナプス⁷等を貪食により除去していることを発見しました。これまで、死細胞を貪食により除去すると考えられていたのはミクログリアですが、ミクログリアは、脳梗塞後直ぐに梗塞巣の中心部位(コア)⁴へと集積して多数の死細胞を貪食により取り込みます。一方、貪食性アストロサイトは傷害から1週頃をピークにゆっくりと主に梗塞巣周辺部位に集積し、脳梗塞により傷ついた神経細胞、シナプスを貪食することがわかりました。アストロサイトとミクログリアは、脳梗塞後に、異なる時期、傷害程度が異なる部位で、それぞれ貪食作用を示していること、また3次元電子顕微鏡⁸による詳細な観察から、貪食により取り込む細胞断片の量は、両細胞で同程度であることが明らかになりました。つまり、アストロサイトも十分な量の貪食を行う貪食細胞に変身することができ、ミクログリアとは異なる時期・空間で、その貪食作用を発揮していることが明らかになりました。
また、アストロサイトが貪食能を獲得する分子メカニズムとして、ABCA1⁹という分子の発現が亢進することを見出しました。脳梗塞後にアストロサイトはABCA1を強く発現し、ABCA1依存的に貪食します。アストロサイト特異的にABCA1を欠損させたマウスでは、脳梗塞後の貪食が著しく低下し、梗塞巣の周辺部位により多くの死細胞の断片が蓄積する傾向があることも明らかになりました。脳梗塞後の細胞断片の残存は、組織・神経回路の再構築・修復の障害になることから、アストロサイトが貪食性を獲得し、脳内微小環境を整備している可能性が予想されます。
 
本研究は、日本学術振興会 新学術領域研究「グリアアセンブリの動作原理の解明」(研究代表者:小泉修一教授)、挑戦的萌芽研究、基盤研究(B)、若手研究(B)、 特別研究奨励費、及び日本医療研究開発機構(AMED)の革新的先端研究開発支援事業(AMED-CREST)「脳神経回路の形成・動作原理の解明と制御技術の創出」(研究代表者:鍋倉淳一教授、研究分担者:小泉修一教授)、山梨大学最先端脳科学研究による支援を受けて行われました。なお、AMED-CRESTにおける本研究開発領域は、平成27年4月の日本医療研究開発機構の発足に伴い、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)より移管されたものです。
 
今後の展開
本研究によって、脳梗塞後に、アストロサイトが貪食性を獲得すること、及びその分子メカニズムが明らかになりました。また、貪食性アストロサイトの活動が、脳梗塞の予後に大きく影響する可能性が示唆されました。今後は、アストロサイトの貪食が、梗塞辺縁領域の修復・再構築に与える影響を精査し、そのコントロールを可能とする薬物等を見出すことにより、アストロサイトの視点から脳卒中の予後及びリハビリ等に役立つ戦略開発に結びつけたいと考えています。
 
用語説明
1. グリア細胞:
脳を構成する神経細胞以外の細胞群。グリア細胞は、神経細胞のように電気的な興奮性を示さない一方で、カルシウムイオン等の細胞内イオン濃度変化を利用して情報を授受していると考えられている。グリア細胞にはアストロサイト、ミクログリア、オリゴデンドロサイトなどが含まれる。
 
2. アストロサイト:
グリア細胞の一種で、神経細胞の周囲に豊富に存在し、神経細胞の物理的支持、栄養供給などを行う。近年、アストロサイトも伝達物質を放出し、神経伝達、ひいては脳機能に影響を及ぼすことが明らかになり、注目を集めている。一方、脳外傷、脳梗塞などの急性傷害だけでなく、慢性神経変性疾患など、ほぼ全ての脳病態時に活性化型と呼ばれる状態へと遷移し、その形態・性質を激変させることも知られる。
 
3. 貪食:
死細胞やその断片などの不要異物を細胞内へと取り込み、除去する作用。
 
4. 梗塞巣(コア)と傷害辺縁部(ペナンブラ):
脳梗塞によって生じる傷害は、修復不可能なダメージを受けた不可逆的な梗塞部位(梗塞巣)と血流の低下は伴うが細胞死を免れ、血管の再開通などによって救出可能な梗塞巣周囲の傷害辺縁部(ペナンブラ)に分けられる。
 
5. ミクログリア:
グリア細胞の1種で、脳内における免疫担当細胞。正常時には、細かな突起を周囲に伸ばして周辺環境を監視し、病態時には、環境の変化を察知し、その性質を変化させる。炎症応答や脳内不要物質の除去だけでなく、神経細胞の保護などその機能は多岐に渡る。
 
6. 一過性脳梗塞モデル:
本研究では中大脳動脈閉塞モデルを用いた。塞栓糸を頚動脈から中大脳動脈まで挿入、留置することで脳虚血を誘導した。一定時間後、塞栓糸を引き抜き、閉塞を解除(再灌流)し、一過性の脳梗塞を起こした。
 
7. シナプス:
神経細胞同士の接続部分で、神経細胞間の信号伝達部位。神経回路網の最小ユニット。シナプスが新たに形成・消去することで神経回路が再構築され、学習や記憶といった脳機能が実現されると考えられる。シナプスの再構築は病態時にもよく観察され、脳梗塞後は特にペナンブラ領域で頻繁に起こるとされる。
 
8. 3次元電子顕微鏡:
電子顕微鏡では光の代わりに電子線を利用し、光学顕微鏡では検出限界以下の超微細構造を可視化することができる。ミクロトーム組み込み式走査型電子顕微鏡(SBF-SEM)を用いて、連続断面画像を取得し、得られたデータをコンピュータ上で3次元再構築することで、超微細構造を3次元立体的に観察した。
 
9. ABCA1:
ABCトランスポーターの一種で、線虫で発見された貪食必須遺伝子ced-7の哺乳類相同遺伝子。マウスにおいても発達期のマクロファージによる貪食に重要であることが報告されている。MEGF10、GULP1といった分子と共役して貪食に重要な役割を果たすことが知られる。
 

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論文情報
「論文タイトル・著者情報」
Reactive astrocytes function as phagocytes after brain ischemia via ABCA1-mediated pathway
Yosuke M Morizawa, Yuri Hirayama, Noubuhiko Ohno, Shinsuke Shibata, Eiji Shigetomi, Yang Sui, Junichi Nabekura, Koichi Sato, Fumikazu Okajima, Hirohide Takebayashi, Hideyuki Okano, and *Schuichi Koizumi *責任著者
 
Nature Communications
掲載URL:http://www.nature.com/ncomms
 

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平成29年04月19日

No_58 神経生化学分野 五十嵐道弘教授の発表論文が、Cell Pressの「超解像度顕微鏡を用いた研究」の解説記事に紹介されました

3月9日掲載の神経生化学分野のプレスリリース記事に関する論文(Nozumi, Nakatsu, Katoh, Igarashi: Cell Rep 18:2203-16 [2017])について、Cell Press(http://www.cell.com/)のHPで、Cross talk欄(2017年4月)に”Changing how biologists see with superresolution microscopy”(http://crosstalk.cell.com/blog/changing-how-biologists-see-with-superresolution-microscopy)という超解像度顕微鏡の最近の進歩に関する解説記事がS. Buttery 博士によって書かれ、その中で標記の論文が引用・紹介されています。

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平成29年04月14日

No_57 神経生化学分野 五十嵐道弘教授の論文発表が Journal of Neuroscience の表紙に採用されました

医学科HPに3月23日付掲載のプレスリリース論文(Honda A et al.: Journal of Neuroscience 37(15): 4046-4064)が、掲載号(2017年4月12日号)の表紙に採用されました。
 
当該の写真(下図)は、医学科共通機器の超解像度顕微鏡(SIM)を用いて撮影されたものです。
 
詳しい説明はhttp://www.jneurosci.org/を参照願います。
 

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連絡先
神経生化学(生化学第二)
五十嵐道弘 教授
e-mail:tarokaja@med.niigata-u.ac.jp

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平成29年03月23日

No_56 神経細胞での脂質ラフトを介した新たなシグナル伝達制御を発見 −うつ病やアルツハイマー病,BSE,HIV脳症などの研究に貢献−

本学医歯学総合研究科 五十嵐道弘教授、本多敦子特任助教、伊藤泰行助教らの研究グループは、神経細胞表面においてGPM6aタンパク質がトランスデューサー(シグナル変換器)*¹として作用し、細胞外から細胞内へのシグナル伝達*¹を、脂質ラフト*²を介して制御する機構を世界で初めて発見しました。
 
この発見は、細胞外基質*³のシグナルに応じた神経細胞極性*⁴の決定制御機構を明らかにしただけでなく、うつ病、アルツハイマー病、BSE、HIV脳症などGPM6a発現低下が関係する疾患の研究への貢献が期待されます。本研究成果は、本学大学院医歯学総合研究科と愛知県心身障害者コロニー発達障害研究所、愛知医科大学との共同研究によるもので、The Journal of Neuroscience(インパクトファクター 6.780)に2017年3月8日(水)(米国時間)オンライン速報版に掲載されました。
 
【本研究成果のポイント】
・神経の脂質ラフトにあるGPM6aタンパク質の局在化が、脂質ラフトと神経極性決定に関与する細胞内シグナル分子の集積を誘導し、脂質ラフトにおけるシグナル伝達を制御することを発見。
・GPM6aタンパク質が、細胞外基質ラミニンの刺激に応じて細胞表面でのシグナル変換器(トランスデューサー)として作用し、ラフトを介してシグナル伝達の増強することで、素早い神経極性決定を誘導することを明らかにした。
・GPM6タンパク質発現の抑制は、脳内での神経発生に重要な神経極性決定を停滞させたことから、GPM6aの発現量の低下が、ストレスやウイルス感染に伴う神経疾患の発症機序に関係していると考えられる。
 
Ⅰ.研究の背景
脂質ラフト(ラフト)は、主に糖脂質とコレステロールから構成される細胞膜上の微小膜領域で、シグナル分子が集積するシグナル伝達の場として大事な役割を持ちます。またラフトは、疾患や細菌・ウイルス感染などにも深く関係し、様々な細胞においてその重要性が示されていますが、脳の神経細胞ではラフトの具体的な役割は殆ど分かっていません。一方、神経細胞はこれらの脂質が他の細胞に比べて圧倒的に大量に存在するため、ラフトの重要性も非常に高いものと考えられます。
 
神経細胞は、脳における精密な回路形成や情報の伝達のため、軸索とよばれる一本の長い突起と樹状突起とよばれる短い多数の突起を形成します(図1)。この神経極性決定も、細胞表面における細胞外からのシグナル伝達により制御されるはずですが、未解明のままでした。
 

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Ⅱ.研究の概要
神経細胞の細胞表面におけるシグナル伝達の制御メカニズムを明らかにするため、本研究チームは、以前、成長円錐(軸索形成に重要な先端部)で最も多く発現する膜タンパク質の1つとして同定したGPM6aに注目しました(Nozumi, Honda, Igarashi ら, PNAS, 2009)。
 
GPM6aは細胞膜で、ラフトに局在することを発見しました。GPM6aのラフトにおける局在と、ラフト自体の位置関係を調べたところ、正常なGPM6aは、自身が局在化する神経突起の先端にラフトを密集させましたが、ラフトに局在化できない変異型のGPM6aは、その集合を引起こさず、GPM6a局在が細胞表面のラフトの集合を作り出すことがわかりました。
 
また細胞外基質タンパク質の1つであるラミニンのシグナルが、GPM6aの偏った局在を作ることが分かりました。GPM6aが局在化した神経細胞では、ラフトがGPM6aと同様の、偏った分布を示していました。一方で、GPM6aが欠損した神経細胞では、ラミニンのシグナルがあっても、ラフトの局在化ができず、細胞外のラミニンシグナルにより、GPM6aは細胞表面で偏って局在化し、ラフトの集積を引起こすことを証明できました(図2)。
 

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次に、GPM6aが細胞内で相互作用する分子を調べたところ、神経極性決定に関与するシグナル分子と複合体を形成することを見出しました。ラミニンシグナルによりGPM6aが局在化する際の、ラフトとシグナル分子群の分布を比較すると、両者がGPM6aと同様にラフトに集合しており、GPM6aの欠損した神経細胞では、ラフトもシグナル分子もそれぞれ細胞表面にバラバラに分布してしまうことが分かりました(図2)。
 
ラミニンのシグナルは、神経極性決定までの時間過程を著しく短縮し、GPM6aの欠損した神経細胞ではその作用が生じないことから、GPM6aがラフトと細胞内の神経極性決定シグナル分子の集積を引起こした結果、シグナル伝達の増強が生じて、速い神経極性の決定が誘導されることが明らかになりました。この結果は、マウス胎仔の脳内におけるGPM6aの発現の抑制が、脳神経細胞の神経極性決定を遅延させた結果(図3)と一致していました。
 

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Ⅲ.研究の成果
今回の結果は、GPM6aという分子による、神経細胞外から細胞内へのラフトを介した新たなシグナル伝達制御機構を明らかにしました。
 
本研究において、GPM6aは細胞表面上のトランスデューサーとして、細胞外のラミニンシグナルに応じて、ラフトを介して神経極性決定のシグナル伝達を制御し、非常にスピーディーな神経極性決定を誘導しました。
 
本研究での、マウス脳におけるGPM6aの発現阻害による神経極性決定の遅延の知見は、GPM6aによるシグナル伝達制御が脳形成において重要な役割を持つことを示すと共に、慢性ストレスやウイルス感染などによるGPM6aの発現抑制が、精神疾患や神経疾患を誘発する可能性を明らかにしました。
 
Ⅳ.今後の展開
今回発見した、GPM6aをトランスデューサーとした脂質ラフトを介したシグナル伝達の制御機構は、神経極性決定過程だけでなく、他のシグナル伝達過程にも多様に機能している可能性が高いため、ラフトを介した脳のシグナル伝達の制御機構解明の鍵となります。
 
GPM6a発現の抑制は、うつ病やアルツハイマー病、BSEやHIV脳症などの、精神疾患や神経疾患を発症した患者ではGPM6aの発現量が顕著に低下しています。従って、臨床医療においてGPM6a発現量の測定が、これら疾患の発症診断の指標(バイオマーカー)として活用できることが期待されるだけなく、これらの疾患でのGPM6aによるシグナル伝達を明らかにすることで、疾患の発症原因の解明や、治療法の開発に大きく寄与できます。
 
Ⅴ.研究成果の公表
これらの研究成果は、2017年3月8日(米国時間)のThe Journal of Neuroscience誌(IMPACT FACTOR 6.780)オンライン速報版に掲載されました。
http://www.jneurosci.org/content/early/2017/03/08/JNEUROSCI.3319-16.2017
 
論文タイトル:Extracellular Signals induce Glycoprotein M6a Clustering of Lipid-rafts and associated Signaling Molecules
著者:Atsuko Honda¹,², Yasuyuki Ito¹, Kazuko Takahashi-Niki¹, Natsuki Matsushita³, Motohiro Nozumi¹, Hidenori Tabata⁴, Kosei Takeuchi¹,³ and Michihiro Igarashi¹,²
1) Department of Neurochemistry and Molecular Cell Biology, Graduate School of Medical and Dental Sciences
2) Transdiciplinary Research Programs, Niigata University, Niigata 951-8510, Japan
3) Department of Medical Biology, Aichi Medical University, Nagakute, Aichi 480-1195, Japan
4) Department of Molecular Neurobiology, Institute for Developmental Research, Aichi Human Service Center, Aichi 480-0392, Japan
DOI:https://doi.org/10.1523/JNEUROSCI.3319-16.2017
 
用語説明
1. シグナル伝達・トランスデューサー:
細胞は、外部の環境・状況に対応するために、その情報(シグナル)を、シグナル分子とよばれる因子から因子へ次々に化学的に伝達しあうことで、自らの挙動を決定する。シグナル伝達の経路は大きく分けて、細胞表面において細胞外から細胞内へシグナルを伝達する過程と、細胞内でのシグナルの伝達過程の2つに分けられる。前者では、細胞外の物理的・化学的シグナルが、細胞表面のトランスデューサーにより、細胞内シグナル分子によるシグナルに変換されて伝達される。
 
2. 脂質ラフト:
マイクロドメインとも呼ばれる細胞の膜上の、流動性(流れ)の低い微小な領域のこと。細胞の膜は主に流動性が高い脂質から成っているが、この部分はコレステロールと糖脂質に富み、流動性が低い(流れが遅い)。ここにシグナル分子などの、膜のタンパク質が集積し、細胞表面でのシグナル伝達をはじめ、細胞接着や細胞極性[用語解説4神経極性参照]、細菌・ウイルス感染などにおいて重要な場として機能すると考えられている。膜全体を水面に例えた場合、そこに浮かぶ筏(ラフト)のイメージから、脂質ラフトと呼ばれる。
 
3. 細胞外基質:
生体内で細胞と細胞の間を埋める構造体で、細胞の機能や分化を制御する細胞外の微小環境である。実際には細胞外基質は単なる隙間ではなく、シグナル伝達分子やその受容に関する分子群が多数存在している場所である。細胞外基質のシグナルは、シグナル伝達により細胞外から細胞内に伝えられる。
 
4. 神経(細胞)極性:
細胞極性とは、細胞の持つ空間的な極性(偏り)の総称で、神経細胞は、精巧な脳神経回路の形成や情報の伝達をおこなうため、高度に発達した細胞極性を形成している。神経極性により、通常、神経細胞は1つの細胞体から一本の長い軸索と複数の樹状突起を形成し、樹状突起で他の神経細胞から情報を受取り、細胞体で情報を統合、軸索により次の細胞へと情報を出力することができる。
 
 
本件に関するお問い合わせ先
新潟大学大学院医歯学総合研究科
分子細胞機能学分野 五十嵐道弘 教授
e-mail:tarokaja@med.niigata-u.ac.jp

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平成29年03月14日

No_55 糖尿病性腎症の成因に基づく尿検査法を開発!−早期から予後を診断したり、治療法を見直すための新しい尿検査法−

【本研究成果のポイント】
・糖尿病に合併する腎障害(糖尿病性腎症)は透析導入の第1位の原因疾患であり、心・血管病の重要な危険因子でもある。
・糖尿病性腎症の成因に基づいて、その発症・進展リスクや治療の妥当性を評価できる検査法は今まで確立されていなかった。
・腎臓に発現するメガリンという分子が腎障害性物質(病的タンパク質など)を取り込む「入り口」となって、リソソームの代謝機能に負荷をかけ、その障害をきたすことが、糖尿病性腎症の発症・進展の起点となるが、その機序に関連して、エクソソームという微小構造物に搭載されて尿中にメガリンの排泄が増加することがわかった。
・エクソソームに搭載されるメガリン(全長型)の尿中排泄量を測定することで、早期から糖尿病性腎症の予後(発症・進展しやすさ)を診断したり、治療法に指針を与える可能性がある。
 
Ⅰ.研究の背景
現在我が国では腎不全によって約32万人の方々が透析療法を受けておられ、その数は年間約3万8千人ずつ増加しています。透析療法には年間約1兆5千億円もの医療費が投入されており、医療経済的にも重要な問題になっています(図1)。
 
糖尿病の合併症としての腎障害(糖尿病性腎症)は、透析導入原因疾患の第1位を占めています。また糖尿病患者は腎症を合併すると心臓病や脳卒中の危険も増大することが知られており、糖尿病性の発症・進展を食い止めることは、糖尿病治療における最重要課題のひとつです。
 
ただ、糖尿病性腎症の成因は未だ十分には解明されていません。しかし一方で、糖尿病性腎症が発症・進展しやすい人とそうではない人が存在することが知られています。しかしどのようにしてそのような人を見分けるかは明らかではありません。また腎臓を保護するために現在行われている治療が個々の患者にとって妥当なものかを評価する方法も確立されていません。そこで、糖尿病性腎症の成因に基づいて、その発症・進展のリスクを予測し、治療に指針を与えるとともに、簡便に行える検査法の開発が求められていました。
 
Ⅱ.研究の概要
新潟大学大学院医歯学総合研究科機能分子医学講座の斎藤 亮彦(さいとう あきひこ)特任教授を中心とする研究グループは、2015年に、肥満・メタボ型の糖尿病モデルマウスにおいて、腎臓の近位尿細管細胞に存在するメガリンという分子が「入り口」となって腎障害性タンパク質などを取り込むことにより、リソソームという細胞内小器官にタンパク質代謝負荷をきたし、その機能を障害させることを起点として、糖尿病性腎症が発症・進展する機序を明らかにしました。
 
このたび、そのようなリソソーム障害による糖尿病性腎症の発症・進展機序に伴って、メガリンがエクソソームという微小構造物に搭載されて腎臓から尿中への逸脱が増加すること、そして、そのメガリンを尿中で定量することが糖尿病性腎症の早期診断や予後予測に役立つ可能性があることを明らかにしました。
 
この尿中メガリン測定法は既に新潟大学とデンカ生研(株)が共同特許を取得しており、臨床での実用化に向けて研究を進めています。
 
Ⅲ.研究の成果
腎臓は約100万個のネフロンという構造体が集まってできています。ネフロンでは、糸球体というフィルターを通して、水分を含む血液由来の様々な成分が濾過され、尿細管の中を流れていく過程で、尿細管細胞で再吸収・代謝されたり、あるいは逆に尿細管細胞から様々な物質が分泌されて、最終的に尿が生成されます(図2)。
 
ネフロンの数は生まれた時に決まっており、尿細管の長さはおおおよそ20歳代まで伸びていきますが、それが腎臓の代謝機能を規定します。
 
メガリンは近位尿細管細胞に発現し、糸球体から濾過される様々な物質(タンパク質や薬剤など)を再吸収し、それらの代謝を促す受容体として機能しています(図2)。
 
斎藤特任教授らは、2015年に、高脂肪食を負荷した肥満・メタボ型の糖尿病モデルマウスにおいて、近位尿細管細胞のメガリンが「入り口」となって腎障害性タンパク質などを取り込むことにより、タンパク質の代謝負荷から細胞内のリソソーム障害をきたし、そのことが起点となって、糖尿病性腎症が発症・進展する機序を明らかにしました(図3)(Kuwahara S,et al. J Am Soc Nephrol)
 
このたび、斎藤特任教授を中心とする新潟大学の研究チームは、国立がん研究センター研究所とデンカ生研(株)と協力して、そのようなリソソーム負荷による糖尿病性腎症の発症・進展機序に伴って、メガリンがエクソソームという微小構造物に搭載されて腎臓から尿中への逸脱が増加することを明らかにしました(図4)。さらに、そのようなメガリンを尿中で定量することが、糖尿病性腎症の早期診断や予後予測に役立つ可能性を明らかにしました。
 
本研究においては、インドからの文部科学省国費留学生(新潟大学大学院医歯学総合研究科博士課程)のShankhajit De(シャンカジット デ)さんが主に実験を担当しました。
 
ネフロンの数が少ない、あるいは尿細管の長さが短い場合、糖尿病を罹患すると、それにかかる代謝負荷が増大し、糖尿病性腎症の発症・進展リスクが増大する可能性があります。また、一部のネフロンが障害されると残存するネフロンの負荷が増大し、さらにネフロン障害が進行するリスクが高まります。そのような場合、尿中メガリン測定値をクレアチニン値(機能ネフロン数を反映する)で除すことによって、単一ネフロン当たりの代謝負荷を評価することができます。
 
この検査法は、糖尿病性腎症以外にも、様々な慢性腎臓病について、重症度や予後の診断に役立つ可能性があります。
 
Ⅳ.今後の展開
尿中メガリン測定を組み込んだ臨床研究を行い、3-4年後を目処に尿中メガリン測定試薬の発売や、その後の薬事承認を目指します。
 
Ⅴ.研究成果の公表
これらの研究成果は、Diabetes誌(米国糖尿病学会誌)(インパクトファクター: 8.784)のオンライン版に平成29年3月13日23時(日本時間)に掲載されました。
 
論文タイトル:Exocytosis-Mediated Urinary Full-Length Megalin Excretion is Linked with the Pathogenesis of Diabetic Nephropathy
著者:Shankhajit De, Shoji Kuwahara, Michihiro Hosojima, Tomomi Ishikawa, Ryohei Kaseda, Piyali Sarkar, Yusuke Yoshioka, Hideyuki Kabasawa, Tomomichi Iida, Sawako Goto, Koji Toba, Yuki Higuchi, Yoshiki Suzuki, Masanori Hara, Hiroyuki Kurosawa, Ichiei Narita, Yoshiaki Hirayama, Takahiro Ochiya, Akihiko Saito
 
用語説明
メガリン:
近位尿細管細胞の管腔側膜に発現する分子。腎臓の他では肺、脳、内耳、眼などにも発現する。腎臓では、糸球体から濾過される様々な物質(タンパク質や薬剤など)を再吸収(エンドサイトーシス)し、それらの代謝を促す受容体として機能している。メガリンに結合した糸球体濾過分子は細胞内に取り込まれてエンドソームからリソソームに運ばれ、そこで分解されるが、メガリン自身は細胞膜にリサイクルする。エクソソームに搭載されて尿中に排出される。
 
リソソーム:
真核生物が持つ細胞内小器官の一つ。内部に加水分解酵素を持ち、エンドサイトーシスやオートファジー(細胞内の不要小器官の自己消化経路)によって膜内に取り込まれた分子がここで分解される。
 
エクソソーム:
ほとんどの細胞から分泌される直径40-150nm程度の膜小胞。様々なタンパク質や脂質、RNAが含まれる。他の細胞への情報伝達を担う可能性も指摘されている。がんを含む様々な疾患の診断に役立つことが期待されている。
 

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本件に関するお問い合わせ先
新潟大学大学院医歯学総合研究科
機能分子医学講座 特任教授 斎藤亮彦
e-mail:akisaito@med.niigata-u.ac.jp

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平成29年03月09日

No_54 伸びる神経突起先端の動きを超高解像で可視化に成功 −ミクロ世界の自動走行を担う分子機構を解明−

脳ができるとき、または損傷後に神経が再生するときには、神経突起の先端に形成される「成長円錐」が自律的に突起を正しいルートに先導することで正常な神経回路が作られます。本学大学院医歯学総合研究科の五十嵐道弘教授、野住素広講師らの研究グループは、超高解像顕微鏡を使って、神経の先端が伸びるとき、同時に先端から細胞膜を取り込む仕組みを明らかにしました。神経成長に不可欠なこの過程は、神経細胞が細胞体から遠く離れた先端から効率的に情報を取り込むのに利用していると考えられます。
本研究成果は、本学大学院医歯学総合研究科と産業技術総合研究所の共同研究によるもので、Cell Reports(オープンアクセスの電子ジャーナル:インパクトファクター 7.870)に平成29年3月1日(水)午前2時(日本時間)に掲載されました。
 
【本研究成果のポイント】
・神経先端(成長円錐)のこれまで見え難かった細胞内微細構造(アクチン細胞骨格、細胞膜、細胞膜に含まれるタンパク質など)を、超解像顕微鏡を使って鮮明に撮影することに成功した。
・アクチン細胞骨格の伸長とアクチン束形成で神経突起が伸びるとき、同時にその近傍で細胞膜が取り込まれて、輸送小胞が生じることを発見した。それらに関係する分子を明らかにした。
・神経先端(成長円錐)における細胞膜取り込みは神経成長に必要であることから、神経が伸びる際の先端からの情報伝達に関係すると考えられる。
 
Ⅰ.研究の背景
成長円錐は伸長中の神経突起の先端に生じる構造で、細胞外の誘導因子に反応して神経突起を正しい方向へ先導することが知られています。環境に応じて正しい経路を自走する成長円錐は、体内におけるミクロの自動運転車と考えることもできます。脳の発生や神経損傷後の再生に不可欠な成長円錐ですが、1つの分子集合体としてどのように"自動走行"を実現させているかはまだ完全に説明できていません。神経成長を傘が開くことに例えると、傘の骨(細胞骨格)と傘の布(膜)とが、どのように同調して動いていくのか、これまでは全く解りませんでした。
 
Ⅱ.研究の概要
成長円錐が動く仕組みを明らかにするため、私たちの研究グループはこれまでにプロテオミクス解析を行い、成長円錐を構成する部品であるタンパク質を網羅的に同定しました(Nozumiら, 2009)。次にそれらのタンパク質が成長円錐のどこに存在するかを明らかにするため、蛍光タンパク質とつないで細胞に発現させて、蛍光顕微鏡で生きた成長円錐で観察を行いました。その観察を通じて、成長円錐の先端から細胞膜が頻繁に細胞内に取り込まれていることが分かりました。成長円錐の中でも先端部分はアクチン細胞骨格が沢山存在し、骨格の伸長により実質的な神経の伸びを生み出す重要な領域です(図1)。
成長円錐の先端部分におけるアクチン細胞骨格と細胞膜のそれぞれの動きを詳細に観察するため、従来の顕微鏡より分解能が格段に優れている超解像顕微鏡(SIM)を使って撮影を行いました。その結果、アクチン細胞骨格が伸長し、アクチンの束を形成するとき、同時にその近傍で細胞膜の一部が細胞内に取り込まれて輸送小胞が生まれる様子を動画で初めて捉えることに成功しました(図2)。この細胞膜の取込みは、エンドフィリンと呼ばれるタンパク質が集まって引き起こされることが分かりました。アクチンの束形成を人為的に阻害したところ、成長円錐のアクチン束が減るだけに留まらず、成長円錐の先端にエンドフィリンが集まらなくなりました。これらの結果から、神経先端ではアクチン細胞骨格の伸長によって局所的な細胞膜取込みが誘導されていると結論しました。阻害実験を行い、神経成長にエンドフィリンが必要であることも証明しました。超解像顕微鏡による成長円錐構造の3次元再構成の結果、細胞膜取込みの誘因因子として広く知られているクラスリンは成長円錐の底面膜に多いのに対し、エンドフィリンは成長円錐表面の細胞膜に多く集積することが初めて明らかになりました(図3)。これらの結果から、神経が伸びながら先端表面の細胞膜を積極的に取り込むことによって、細胞外環境を探る成長円錐のメカニカルな仕組みが解明できました。
 

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Ⅲ.研究の成果
これまで知られていなかった神経先端での細胞骨格と細胞膜取込みの関係を明らかにしました。アクチン細胞骨格が伸長することにより、近傍で細胞膜の取込みが生じ、作られた輸送小胞はアクチン細胞骨格と一緒に細胞内へと取り込まれます。これは成長円錐が前進しつつ、進行方向から物質を取り込むのに非常に便利な仕組みであると考えられます。
取り込まれる細胞膜にはコレステロールが含まれていることが明らかになりました。コレステロールは細胞膜の一部で脂質ラフトと呼ばれる微小領域を形成し、細胞外から細胞内への分子シグナルを効率的に伝達していると考えられています。今回の観察では、脂質ラフトに集積する膜タンパク質も神経先端から細胞膜と一緒に取り込まれることが分かりました。成長円錐が先端で細胞外の分子を捕らえ細胞内に取り込んで、情報伝達を行うための仕組みと考えることができます。
神経突起の先端に生じる成長円錐は非常に小さく、厚みの薄い構造なので、従来の顕微鏡では平面的にしか見えていませんでした。今回の超解像顕微鏡による解析では、約1マイクロメートル(1ミリメートルの1000分の1)の厚みをもつ成長円錐を3次元的にスライスして再構成することに成功しました。この可視化技術は、これまで観察が難しかった生体試料の微小立体構造の解明に効果的だと考えられます。
 
Ⅳ.今後の展開
今回発見した神経先端からの細胞膜取込みは、成長円錐の機能に重要な役割を果たしている可能性が極めて高いと考えられます。アクチン細胞骨格と協調して生じる細胞膜の取込みと神経成長を促進するシグナル伝達の関係を明らかにすることは、成長円錐が持っている"自動走行"機能の分子機構の解明につながります。また神経成長の分子基盤解明は、損傷神経回路の再生・再建および老化や疾患に対する神経再活性化の方法開発にも大きく寄与することが期待されます。これまで骨格と膜の協調運動がわからず、どのように神経を再生できるかわからなかったものが、今回の研究で解明でき、神経再生への基盤が解明できたと思います。
 
Ⅴ.研究成果の公表
これらの研究成果は、本学大学院医歯学総合研究科と産業技術総合研究所の加藤薫博士との共同研究で得られたもので、平成29年2月28日のCell Reports誌(IMPACT FACTOR 7.870, 5 YEAR IMPACT FACTOR 8.122)に掲載されました。
 
論文タイトル:Coordinated Movement of Vesicles and Actin Bundles during Nerve Growth Revealed by Superresolution Microscopy
 
著者:Motohiro Nozumi¹, Fubito Nakatsu¹,³, Kaoru Katoh⁴, Michihiro Igarashi¹,²
1) Department of Neurochemistry and Molecular Cell Biology, Graduate School of Medical and Dental Sciences
2) Trans-disciplinary Research Program, Niigata University, Chuo-ku, Niigata 951-8510, Japan
3) PRIME, Japan Agency for Medical Research and Development (AMED), Chiyoda-ku, Tokyo 100-0004, Japan
4) Biomedical Research Institute, National Institute of Advanced Industrial Science and Technology (AIST), Tsukuba, Ibaraki 305-8566, Japan
 
野住素広¹、中津史¹,³、加藤薫⁴、五十嵐道弘¹,²
1) 新潟大学大学院医歯学総合研究科神経生化学・分子細胞生物学
2) 新潟大学超域学術院
3) AMED-PRIME
4) 産業技術総合研究所バイオメディカル研究部門
 
doi: http://dx.doi.org/10.1016/j.celrep.2017.02.008
 
<用語集および補足説明>
1)成長円錐
神経突起が伸びるとき、その先端にアメーバ状の運動性の高い構造体が作られます。これを成長円錐(growth cone)と呼びます。成長円錐は貨物列車の機関車のように目的地まで神経突起を牽引すると、標的の細胞に対してシナプスを形成します。私たちの神経細胞の中には1mもの神経突起を伸ばすものも存在し、その成長円錐は自分のサイズの約10万倍の距離を移動することになります。移動ルートは線路のように予めガイド分子(ガイダンス分子)が敷かれている場合もあれば、目的地の細胞や中継地点の細胞からガイダンス分子が放出されることもあります。ガイダンス分子には成長円錐に対して「こっちに来い」の意味をもつ誘因性ものと、逆に「こっちに来るな」という反発性のものがあり、成長円錐はそれぞれのガイダンス分子を受け取りながら正しいルートを選択します。
成長円錐の細胞膜上にはガイダンス分子を受け取るための様々な受容体が存在しています。成長円錐内では受け取ったガイダンス分子に応じて、アクチンなどの細胞骨格を組み立てたり、壊したりすることで、成長円錐の形が変化します。細胞骨格の調節と同時に足場となる接着分子や細胞膜も総合的に変化することで、成長円錐の進行方向、前進または停止を制御していると考えられています。
 
2)超解像顕微鏡
光学顕微鏡は光源に可視光線(波長が約400〜750nm)を用いるため、原理的に200nmの分解能が限界だと考えられてきました。そのため、医学生物学分野では極めて微細な生体構造・分子を見るために、可視光よりも波長が短い電子線を光源とする電子顕微鏡を用いています。しかし、生きた生体試料を観察したり、同時に多種類の分子を可視化するには光学顕微鏡を使うしかありません。最近、光学限界の壁を破る複数の方法が開発されて、100〜20nmの分解能をもつ「超解像顕微鏡」が使えるようになりました。2014年には超解像顕微鏡の開発者3名にノーベル化学賞が贈られるほど、サイエンスの発展に大きな影響を及ぼしています。
本研究で用いたのはその1つである構造化照明顕微鏡(SIM)です。縞模様の照明を用いることで、得られる蛍光像に干渉縞が含まれます。その干渉縞には試料の微細構造の情報が含まれており、計算によって画像に再現することができます。この方法によって、100nm程度の分解能を持つ生体画像が得られます。SIMは生きた細胞が観察可能で、他の超解像顕微鏡に比べて様々な蛍光分子がそのまま使えるのが大きな利点です。
 
3)エンドフィリン
エンドフィリンはBARドメインという特別な構造を持つタンパク質の1つで、2量体を形成することで弓状の構造をとり、曲率を持つ細胞膜に結合します。クラスリン介在性のエンドサイトーシス(細胞膜の取込み)に関与すると考えられてきましたが、クラスリン以外の分子と協調してエンドサイトーシスを誘導するとの報告もあります。
 
 
本件に関するお問い合わせ先
新潟大学大学院医歯学総合研究科
神経生化学分野
五十嵐道弘 教授 e-mail:tarokaja@med.niigata-u.ac.jp
野住素広 講師 e-mail:mnozumi@med.niigata-u.ac.jp

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