新潟大学医学部医学科

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平成30年07月11日

No_84 大学院医歯学総合研究科の杉山清佳准教授が資生堂女性研究者サイエンスグラントを受賞しました

大学院医歯学総合研究科神経発達学分野の杉山清佳准教授が、第11回資生堂女性研究者サイエンスグラントを受賞し、7月6日(金)には東京都港区で受賞式が行われました。
 
本グラントは、次世代の指導的役割を担う女性研究者を支援することが科学技術の発展につながるという考えのもと、指導的女性研究者の育成に貢献することを目的としています。昨年までの受賞者約100名のうち半数以上がその後昇進、昇格され、活躍の場をさらに広げました。
対象研究分野は幅広く、自然科学分野全般の研究に従事する女性研究者を対象としており、杉山准教授は応募総数126名の中から10名の受賞者の1人に選ばれました。
 
杉山准教授の研究テーマは「経験による脳の成長メカニズム:こどもの脳の成長に必要な遺伝子とは?」。子どもの心の発達が脳の回路にどのような影響を与えるか、マウスの実験などを通して解明していくとしています。
 

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平成30年07月02日

No_83 GAP-43のリン酸化が神経伸長のマーカーとなる 〜神経の成長と再生のメカニズム解明に道を開く〜

本学大学院医歯学総合研究科の河嵜 麻実特任助教、玉田 篤史研究員(現・関西医科大学准教授)、医歯学総合病院の岡田 正康特任助教と大学院医歯学総合研究科の五十嵐道弘教授らの研究グループは、伸長している神経におけるタンパク質のリン酸化(注1)を網羅的に解析した結果、神経成長関連タンパク質GAP-43(注2)のリン酸化が伸長・再生する神経で特異的に起きることを発見しました。GAP-43のリン酸化は、神経の伸長・再生に対する優れた分子マーカーとなると同時に、その分子メカニズムの解明に寄与するものと期待されます。
 
【本研究成果のポイント】
・伸長している神経でタンパク質のリン酸化を網羅的に解析した。
・最も高頻度にリン酸化されていたのは、神経成長関連タンパク質GAP-43の96番セリン残基であった。
・リン酸化型GAP-43は、「伸びている神経」および「損傷後に再生中の神経」に特異的に認められ、神経伸長・再生の優れた分子マーカーとなることがわかった。
・リン酸化型GAP-43に着目することで神経伸長・再生の研究が進むと期待される。
 
Ⅰ.研究の背景
脳の神経細胞は、発生期に軸索(注3)と呼ばれる突起を伸ばして複雑な神経回路を作ります。また、大人になって脳が損傷を受けた場合でも、ある程度軸索が再生することが知られており、これを制御すれば失われた脳機能を回復できるのではないかと期待されています。伸びている軸索の先端には成長円錐とよばれる構造があり、そこに多数のタンパク質が集まっており、軸索を正しい方向に導くと考えられています。これまでに本研究グループは、成長円錐のタンパク質を網羅的に解析し(プロテオーム解析)、軸索伸長関連タンパク質群を同定しています(PNAS, 2009)。細胞内でタンパク質が秩序立って働く仕組みはシグナル伝達と呼ばれ、これにはタンパク質のリン酸化、という現象が関係することが解っています。そこで本研究では、成長円錐の機能解明を目指して、そこでのタンパク質リン酸化の実体を探ることにしました。
 
Ⅱ.研究の概要
本研究では、まず、成長円錐のリン酸化プロテオーム解析(注4)を行い、約1,200種のタンパク質から総数3万のリン酸化を含むペプチド(タンパク質の断片)を解析し、約4,600のリン酸化部位を同定しました(図1-a,b)。これらリン酸化部位に関するリン酸化酵素(キナーゼ)の認識配列解析を行ったところ、総リン酸化部位の60%以上はMAPキナーゼ(MAPK)群を主体とするプロリン指向性リン酸化酵素の認識配列でした(図1-c)。また最も多く検出されたリン酸化部位は、神経成長関連タンパク質GAP-43の96番セリン(S96)残基でした(図1-b)。種々の生化学的解析から、このリン酸化はMAPK群の一種JNK(注5)で起こり、他の高頻度リン酸化部位についても、JNKの関与が証明されたので、成長円錐でのリン酸化にはJNKが中心的役割を担うことが確定しました(図2)。さらに、S96リン酸化(pS96)を特異的に認識する抗体を作成すると、発生過程に成長している軸索(図3)、及び、損傷後に再生する軸索(図4)を特異的に標識できることが証明でき、再生軸索から直接S96リン酸化を同定する方法も確立しました。

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Ⅲ.研究の成果
成長円錐のリン酸化プロテオーム解析から、軸索の伸長・再生に必要なシグナル伝達の、全体像の理解につながる結果が世界で初めて得られました。JNKはこれまで神経細胞死を司る役割が想定されていましたが、今回の結果は、この酵素が正反対の役割、すなわち軸索の伸長・再生を制御する役割を持つことを明確に証明でき、JNKでリン酸化されて神経成長に関与するタンパク質と、そのリン酸化部位を多数同定できました。また、pS96は軸索の伸長・再生を制御するシグナル伝達で、その抗体はこれらの現象の、有用な分子マーカーであることを確立できました。
 
Ⅳ.今後の展開
本研究成果で、軸索の伸長・再生の制御を担うリン酸化酵素の役割を解明でき、pS96が軸索の伸長・再生マーカーとなることを証明できました。今後は、pS96の軸索伸長での詳細な分子メカニズムや、新たなリン酸化分子マーカーの確立を探索していきます。近未来的にはこれらのリン酸化を標的として制御することにより、創薬や診断マーカーの開発を含めた神経再生医療への貢献をめざします。
 
Ⅴ.研究成果の公表
これらの研究成果は、平成30年6月29日のiScience誌(本誌は世界的な実験医学のジャーナルである”Cell”の姉妹誌で、学際的分野の重要な論文を速報する目的で本年3月に創刊されたオープンアクセスジャーナル)に掲載されました。
論文タイトル:Growth Cone Phosphoproteomics Reveals that GAP-43 Phosphorylated by JNK Is a Marker of Axon Growth and Regeneration
著者:Asami Kawasaki¹,²,¹º Masayasu Okada¹,²,³,¹º,Atsushi Tamada¹,²,⁴,¹º,¹¹,Shujiro Okuda⁵,Motohiro Nozumi¹,²,Yasuyuki Ito¹,Daiki Kobayashi¹,Tokiwa Yamasaki⁶,¹²,Ryo Yokoyama⁷,Takeshi Shibata⁷,Hiroshi Nishina⁶,Yutaka Yoshida⁸,Yukihiko Fujii³,Kosei Takeuchi¹,²,⁹,and Michihiro Igarashi¹,²,¹³,*
¹Department of Neurochemistry and Molecular Cell Biology, Graduate School of Medical and Dental Sciences, Niigata University, 1-757 Asahimachi, Chuo-ku, Niigata 951-8510, Japan
²Center for Trans-disciplinary Research, Institute for Research Promotion, Niigata University, Chuo-ku, Niigata 951-8510, Japan
³Department of Neurosurgery, Brain Research Institute, Niigata University, Chuo-ku, Niigata 951-8585, Japan
⁴Precursory Research for Embryonic Science and Technology, Japan Science and Technology Agency, Kawaguchi, Saitama 332-0012, Japan
⁵Laboratory of Bioinformatics, Graduate School of Medical and Dental Sciences, Niigata University, Chuo-ku, Niigata 951-8510, Japan
⁶Department of Developmental and Regenerative Biology, Medical Research Institute, Tokyo Medical and Dental University, Bunkyo-ku, Tokyo 113-8510, Japan
⁷K.K. Sciex Japan, Shinagawa-ku, Tokyo 140-0001, Japan
⁸Center for Coordination of Research, Institute for Research Promotion, Niigata University, Ikarashi, Niigata 951-2181, Japan
⁹Department of Medical Cell Biology, Aichi Medical University, Nagakute, Aichi 480-1195, Japan
¹ºThese authors contributed equally
¹¹Present address: Department of iPS Cell Applied Medicine, Kansai Medical University, Hirakata,Osaka 573-1010, Japan
¹²Present address: Department of Physiology, Keio University School of Medicine, Shinjuku-ku, Tokyo 160-8582, Japan
¹³Lead Contact
*Corresponding author
doi: https://doi.org/10.1016/j.isci.2018.05.019
 
 
用語説明
注1:タンパク質リン酸化
タンパク質の特定のアミノ酸(セリン、スレオニン、チロシン)にATPの末端リン酸基を一つあるいは複数転移する反応。この反応を触媒するのが、タンパク質リン酸化酵素(キナーゼ)である。ヒトには500種類以上のリン酸化酵素が存在しており、認識配列の違いから、酸性アミノ酸指向性、塩基性アミノ酸指向性、プロリン指向性とそれ以外の4グループに大別される。リン酸化は細胞が刺激の応答を受ける際に起こる化学反応(シグナル伝達)の中で、最も重要な反応である。

注2:GAP-43(Growth-Associated Protein 43-kDa,神経成長関連タンパク質 43)
主に発生途上及び再生中の神経細胞で高発現しているタンパク質で、神経突起の伸長に関わると想定されているが、詳細な機序はまだ解明されていない。

注3:軸索
神経細胞から伸びる突起の一種。細胞体から出るときは一本であるが、途中で枝分かれしながら長く伸びて、最終的に別の細胞に接合する。細胞体で統合した情報を活動電位として次の細胞に伝える働きを持つ。神経細胞では唯一の出力突起であり、その損傷後に再生が出来ない場合には、変性して細胞死が起こる。ヒトの成熟脳・脊髄では軸索の再生が極めて生じにくいことが知られていて、神経損傷や神経疾患が難治性である1つの理由となっている。

注4:リン酸化プロテオーム解析
細胞内の全タンパク質のリン酸化状態を網羅的に解析すること。

注5:JNK(c-Jun N-terminal Kinase)
タンパク質リン酸化酵素の1種で、細胞外からの様々なストレスにより活性化し、細胞死を誘導することが発見当時から知られていた。近年、ストレス応答に加え、発生過程および再生過程の神経軸索の伸長に重要であることが明らかになってきた。
 
 
本件に関するお問い合わせ先
新潟大学大学院医歯学総合研究科分子細胞機能学、及び医歯学系神経生化学分野(医学部生化学第二)
河嵜麻実 特任助教
E-mail:akawasaki@med.niigata-u.ac.jp
五十嵐道弘 教授
E-mail:tarokaja@med.niigata-u.ac.jp

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平成30年06月20日

No_82 ミトコンドリアオートファジーを抑制する新しい制御因子を発見

新潟大学大学院医歯学総合研究科機能制御学分野の古川健太郎特任助教、神吉智丈教授らの研究グループは、東京工業大学生命理工学院の中戸川仁准教授らとの共同研究により、タンパク質脱リン酸化酵素Ppg1が、ミトコンドリアオートファジー(注1)(以下、マイトファジー)を抑制する制御因子として機能していることを発見しました。マイトファジーは、傷害を受けたあるいは余剰に存在するミトコンドリアを分解することで、ミトコンドリアの恒常性を維持する重要な細胞品質管理機構です。本研究は、マイトファジー制御機構の全容解明へ新たな道を拓き、老化やミトコンドリア機能低下が関わる様々な疾患の予防・治療の糸口となる成果です。
 
【本研究成果のポイント】
・マイトファジーレセプターAtg32の脱リン酸化を介してマイトファジーを抑制する脱リン酸化酵素Ppg1を同定した。
・Ppg1またはFar複合体(Ppg1の結合因子として同定)の欠損は、Atg32の恒常的なリン酸化およびマイトファジーの亢進を引き起こした。
・Atg32の151-200の細胞質領域がマイトファジーの抑制に重要であることが明らかとなった。
・タンパク質リン酸化酵素と脱リン酸化酵素(注2)の競合によるマイトファジーの新たな制御機構モデルを提唱した。
 
Ⅰ.研究の背景
ミトコンドリアは、細胞が必要とするエネルギーの大半を産生する細胞内小器官で、生命活動を行う上で非常に重要な役割を果たしています。エネルギー産生の過程で傷ついたミトコンドリアは細胞にとって有害であり、ミトコンドリアのみを標的とするオートファジー(以下、マイトファジー)によって除去される必要があります。マイトファジーの機能が破綻し、細胞内に不良ミトコンドリアが蓄積すると、神経変性疾患(注3)や老化現象などの要因となります。マイトファジーは、ミトコンドリア関連疾患治療の糸口として注目されており、酵母からヒトまで多岐に渡るマイトファジーの分子機構と生理的意義の全容解明は急務となっています。
本研究室では、酵母をマイトファジーのモデル生物として用いて、マイトファジーのレセプター(注4)として機能するAtg32の同定(Kankiら、Dev Cell、2009)を皮切りに、マイトファジーの分子機構の大部分を明らかにしてきました。2013年に、Atg32がカゼインキナーゼ2(以下、CK2)という酵素によってリン酸化されることがマイトファジーの引き金となることを発表しました(Kankiら、EMBO Rep)。しかしながら、CK2は常に活性を持った状態で細胞内に大量に存在するにもかかわらず、Atg32のリン酸化はマイトファジー誘導時のみ起こる現象であることから、通常条件下ではどのようにリン酸化が抑制されているのかは不明のままでした。
 
Ⅱ.研究の概要と成果
Atg32のリン酸化を抑制する因子を探索する方法として、マイトファジーが誘導されると、Atg32がリン酸化依存的にミトコンドリア上にドット状に集積する現象に着目しました。マイトファジーを誘導せずにこのような特徴を示す変異株を探索したところ、脱リン酸化酵素Ppg1が同定されました。Ppg1を欠損させると、CK2依存的にAtg32の恒常的なリン酸化が起こり、その結果としてマイトファジーの亢進が見られました。興味深いことに、Atg32のリン酸化だけではマイトファジーは進行せず、オートファジーのコアとなる部分も同時に活性化されることが重要であることが分かりました。また、マイトファジー以外のオートファジー、例えばペルオキシソームという細胞内小器官を分解するペキソファジーやそのレセプターであるAtg36の制御にはPpg1は関与しないことも分かりました。
Ppg1が属するPP2Aファミリーの脱リン酸化酵素(注5)は、活性調節因子と結合して機能を発揮することが知られています。しかしながら、Atg32の脱リン酸化にはPpg1は既知の活性調節因子を必要としなかったことから、未知の因子が関与すると推測しました。そこで、Ppg1と結合する因子をプロテオーム解析(注6)という手法で探索したところ、Far複合体(Far3、7、8、9、10、11の6タンパク質から成る)が同定されました。Far複合体を欠損させると、Ppg1欠損と同様にAtg32の恒常的なリン酸化とマイトファジーの亢進が見られました。
最後に、マイトファジーの抑制にAtg32タンパク質のどの領域が重要なのかを調べました。Atg32のアミノ酸配列151-200番目の領域を欠損させると、Ppg1欠損とほぼ同様の結果となったことから、Ppg1はこの領域を介してAtg32を脱リン酸化していると推測されました。以上の結果をもとに、図1に示されたマイトファジーの制御機構を提唱しました。
 

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図1 マイトファジーの制御機構モデル
@通常条件下ではPpg1-Far複合体の作用によってAtg32のリン酸化は抑制されている。Aマイトファジーの誘導条件下では、Ppg1-Far複合体よりもCK2が優位に働き、Atg32のリン酸化が起こる。BAtg32のリン酸化およびアダプタータンパク質Atg11依存的にAtg32はミトコンドリア上に集積する。Cオートファジーのコア因子依存的にマイトファジーが進行する。
 
≪用語説明≫
(注1)オートファジー
細胞質成分をオートファゴソームと呼ばれる二重膜で包み込み、液胞あるいはリソソームで分解し、栄養源の再利用や傷ついた細胞小器官(ミトコンドリア、ペルオキシソーム、小胞体など)を排除する酵母からヒトまで備わる重要な生理機能である。オートファジーには、細胞質成分を非選択的に丸ごと分解するバルクオートファジー、細胞小器官や特定の酵素のみを選択的に分解する選択的オートファジーに大きく分類される。本研究では、ミトコンドリアを選択的に分解するマイトファジーに焦点を当てている。
 
(注2)タンパク質リン酸化酵素と脱リン酸化酵素
多くのタンパク質は、特定のアミノ酸(セリン、スレオニン、チロシン)がタンパク質リン酸化酵素によってリン酸化という修飾を受けることによって、その立体構造が変化し、活性の上昇や低下あるいは他のタンパク質との結合や解離などが起こる。リン酸化されたタンパク質は、脱リン酸化酵素によって脱リン酸化される。
 
(注3)神経変性疾患
神経の変性や神経細胞死を伴う病気の総称であり、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)などが知られている。近年、パーキンソン病はマイトファジーの異常が原因の一つだと考えられている。
 
(注4)マイトファジーのレセプター
ミトコンドリア上に存在するマイトファジーの目印となるタンパク質。酵母ではAtg32が知られているが、ヒトではPINK1/Parkin依存的なマイトファジーとPINK1/Parkin非依存的なマイトファジーレセプター(Nix、BNIP3、FKBP8、FUNDC1、Bcl2-L-13など)が存在する。
 
(注5)PP2Aファミリーの脱リン酸化酵素
酵母では、Pph21、Pph22、Pph3、Sit4、Ppg1が知られている。Pph21とPph22は、Tpd3、Cdc55、Rts1と結合し、Sit4はSap4、Sap155、Sap185、Sap190と結合することで脱リン酸化酵素としての機能を発揮する。本研究では、Ppg1はFar複合体と協調的に働くことが推測された。
 
(注6)プロテオーム解析
細胞内外のタンパク質を網羅的に解析する方法。本研究では、質量分析装置を用いてPpg1と結合するタンパク質群を同定した。
 
Ⅲ.今後の展開
マイトファジーの誘導条件下において、Ppg1とFar複合体は未解明のシグナルによって不活性化され、Atg32を脱リン酸化することができなくなり、結果的にAtg32はCK2によるリン酸化を受けると推測されます。今後は、このシグナルの正体と詳細な分子機構を明らかにすることでマイトファジーの制御機構の全容解明を目指します。
 
Ⅳ.研究成果の公表
これらの研究成果は、新潟大学研究推進機構の吉田豊特任専門職員、東京工業大学生命理工学院の中戸川仁准教授との共同研究で得られたもので、平成30年6月20日午前1時(日本時間)のCell Reports誌(IMPACT FACTOR 8.282)に掲載されました。

論文タイトル:The PP2A-like protein phosphatase Ppg1 and the Far complex cooperatively counteract CK2-mediated phosphorylation of Atg32 to inhibit mitophagy
 
著者:Kentaro Furukawa¹,*, Tomoyuki Fukuda¹, Shun-ichi Yamashita¹, Tetsu Saigusa¹, Yusuke Kurihara¹,⁵, Yutaka Yoshida²,³, Hiromi Kirisako⁴, Hitoshi Nakatogawa⁴, and Tomotake Kanki¹,*
 
1)Department of Cellular Physiology, Niigata University Graduate School of Medical and Dental Sciences, Niigata 951-8510, Japan
2)Department of Structural Pathology, Kidney Research Center, Niigata University Graduate School of Medical and Dental Sciences, Niigata 951-8510, Japan
3)Institute for Research Promotion, Niigata University, Niigata 950-2181, Japan
4)School of Life Science and Technology, Tokyo Institute of Technology, Yokohama 226-8501, Japan
5)Present address: Department of Microbiology and Immunology, Faculty of Medicine, Fukuoka University, Fukuoka 814-0180, Japan
*)Corresponding authors
 
doi: 10.1016/j.celrep.2018.05.064
 
 
本件に関するお問い合わせ先
新潟大学大学院医歯学総合研究科 機能制御学分野
神吉智丈(かんきともたけ) 教授
E-mail:kanki@med.niigata-u.ac.jp

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平成30年06月05日

No_81 遺伝性重度発達障害の原因となる新たな遺伝子の同定

新潟大学大学院医歯学総合研究科分子遺伝学分野の小松雅明教授、石村亮輔助教らは、UFM1システム(注1)と呼ばれる細胞内たんぱく質修飾機構の機能低下が小頭症(注2)や精神運動発達遅延(注3)等を伴う遺伝性の発達障害(注4)を引き起こすことを突き止めました。
この研究成果は、キング・ファイサル専門病院 研究センターのFowzan Alkuraya教授、ケンブリッジ大学のGeoff Woods教授らとの国際共同研究で得られたもので、2018年6月2日(英国時間)のBrain誌(IMPACT FACTOR 10.292)に掲載されました。
<<Biallelic UFM1 and UFC1 mutations expand the essential role of ufmylation in brain development>>
  
【本研究成果のポイント】
1. 小頭症や精神運動発達遅延等を伴う遺伝性発達障害の7家系から、原因遺伝子としてUFM1システムに必須なUFM1あるいはUFC1遺伝子の変異を同定した。
2. UFM1あるいはUFC1遺伝子のいずれの変異でもUFM1システムが抑制されることを試験管内で確認した。
3. UFM1あるいはUFC1遺伝子変異を持つ患者由来の細胞において、UFM1により修飾された細胞内たんぱく質の減少を確認した。
 
Ⅰ.研究の背景
重度発達障害をきたす疾患には未だ原因不明のものが多く、その原因遺伝子の同定と病態発症機序の解明が望まれています。
細胞内で生合成されたたんぱく質は、リン酸化、糖鎖付加、脂質付加、メチル化、アセチル化等により修飾され、これら修飾により機能や活性が調節されます。高等生物では遺伝子配列に基づき合成されたたんぱく質が、直接機能を発揮することは少なく、多くは様々な修飾を受けることで機能の多様性が発揮されます。UFM1は細胞内のたんぱく質修飾分子です。UFM1はUBA5酵素により活性化された後、UFC1酵素に移され、最終的に細胞内で生合成されたたんぱく質を修飾し、たんぱく質の機能の変換を担うと考えられています(参考図1)。
ごく最近、小松教授らをはじめ複数のグループにより独立に小頭症や精神運動発達遅延等を伴う遺伝性発達障害の原因遺伝子としてUBA5が同定され、UFM1システムの機能異常と重度発達障害発症との関連が注目されています。
 
Ⅱ.研究の概要
多人種、複数の家系において遺伝性重度発達障害の原因遺伝子としてUFM1そしてUFC1を同定するとともに、それらいずれの変異によってもUFM1システムの機能低下が起こることを突き止めました。
 
Ⅲ.研究の成果
今回、小松教授らは、小頭症や精神運動発達遅延等を伴う遺伝性発達障害患者を持つスーダンの2家系、サウジアラビアの4家系、そしてスイスの1家系の遺伝子解析により、UFM1システムを構成するUFM1およびUFC1をコードする遺伝子に変異を同定しました。試験管内において、変異UFM1たんぱく質はUBA5酵素による活性化、変異UFC1たんぱく質はUFM1の転移が著しく抑制されていることが判明しました(参考図2)。さらに、患者由来の細胞においてUFM1により修飾された細胞内たんぱく質の減少が確認されました(参考図3)。以前に同定したUBA5遺伝子変異も同様にUFM1システムを抑制することから、これらの研究成果は、UFM1システムの機能低下が小頭症や精神運動発達遅延等を伴う遺伝性発達障害を引き起こすことを意味します。
 
Ⅳ.今後の研究について
すでに研究グループは、横浜市立大学大学院医学研究科の松本直道教授(遺伝学)らとの共同研究により遺伝性発達障害患者を持つ日本の家系においてもUFM1システムを構成する遺伝子の変異を同定しています。今後も国内外のUFM1システム関連遺伝子変異を持つ家系の検索、そしてUFM1システムの活性を増加させる薬剤のスクリーニングを行うことで臨床応用を目指しています。
 
 
(用語解説)
(注1)UFM1システム
UFM1と呼ばれる小さなたんぱく質による細胞内たんぱく質の修飾システム(参考図1)。細胞内たんぱく質にUFM1が結合することで機能の変換が起こると考えられている。

(注2)小頭症
先天的な脳の発育不全や出生時における障害等が原因となり、頭蓋が異常に小さい疾患。

(注3)精神運動発達遅延
知的能力と運動能力の発達が共に遅れている状態。

(注4)発達障害
脳機能の障害により、精神面もしくは運動面の発達に問題がある状態。
 

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Ⅴ.研究成果の公表
本研究成果は、2018年6月2日(英国時間)のBrain誌(IMPACT FACTOR 10.292)に掲載されました。
論文タイトル:
Biallelic UFM1 and UFC1 mutations expand the essential role of ufmylation in brain development
著者:
Michael S Nahorski*, Sateesh Maddirevula*, Ryosuke Ishimura*, Saud Alsahli, Angela Brady, Anaïs Begemann, Tsunehiro Mizushima, Francisco J. Guzmán-Vega, Miki Obata, Yoshinobu Ichimura, Hessa S Alsaif, Shams Anazi, Niema Ibrahim, Firdous Abdulwahab, Mais Hashem, Dorota Monies, Mohamed Abouelhoda, Brian F Meyer, Majid Alfadhel, Wafa Eyaid, Markus Zweier, Katharina Steindl, Anita Rauch, Stefan T. Arold, C Geoffrey Woods**, Masaaki Komatsu**, Fowzan S Alkuraya**
*These authors contributed equally to this work
**Co-corresponding author
doi:10.1093/brain/awy135
 
 
本件に関するお問い合わせ先
新潟大学大学院医歯学総合研究科 分子遺伝学分野
教授 小松雅明
E-mail:komatsu-ms@med.niigata-u.ac.jp

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平成30年04月23日

No_80 鰹だしが抗がん剤の副作用予防に有効であることを明らかにしました −分子標的薬による手足症候群の予防、症状軽減に日本古来の食品が有効であることを証明−

新潟大学大学院医歯学総合研究科の上村顕也 講師、寺井崇二 教授らは、肝臓がんの治療に使用される抗がん剤の副作用である手足症候群(注1)に対して、日本古来の食品である鰹だしが有効であることを明らかにしました。
 
【本研究成果のポイント】
・肝臓がん治療に使用される分子標的薬(注2)は、より長く内服を継続することが大事です。その副作用の中で、手足症候群は非常に発症頻度が高く、生活にも影響を与えるため、内服中止の原因となっています。
・これまで、手足症候群の発症メカニズムは解明されておらず、その予防・軽減効果を有する有効な方法は確立されていませんでした。
・私達の研究で、手足症候群は、抗がん剤によって血管が障害された結果、血流が悪くなって起きる副作用であることを解明しました。
・また、日本古来の食品で、血管拡張効果があることが知られている鰹だしが血管を拡張し、末梢の血流を維持することで、手足症候群の発症予防に有効であることを示しました。
・血管が蛍光で光り、生きた状態で体外から血管の状態を観察できるメダカを用いて、手足症候群の状況を再現するモデルを作ることに成功しました。
・この実験系を使って、鰹だしの有効成分を探したところ、ヒスチジンというアミノ酸が少なくともその一つである可能性が示されました。
 
Ⅰ.研究の背景
進行肝癌に対する分子標的薬であるソラフェニブは、より長く内服を継続することで進行肝細胞癌患者の生命予後延長を期待できることが報告されています。一方で、副作用の制御は最重要課題で、中でも手足症候群は、ソラフェニブを内服する患者さんでは約半数の方に発症することが知られ、内服中断によって予後や生活の質に影響を与えることから対策の確立が急務です。
これまでの検討で、手足症候群発症には、手足の血流が低下することが関与することが示されました。一方で、日本古来の食品である鰹だしには、血管拡張効果があることが報告されております。
そこで、本研究では鰹だしを摂取していただく事により、ソラフェニブ内服中の手足症候群の発症制御、症状軽減効果が得られるか、検討しました。
さらに、鰹だしの成分である、ヒスチジンという血管拡張作用のあるアミノ酸が、ソラフェニブの血管障害を制御するか、血管が蛍光で光るメダカ動物モデルを用いて検証しました。
 
Ⅱ.研究の概要
ソラフェニブを内服するために入院された患者様に、鰹だしを飲用していただき、末梢血流量の変化、手足症候群の発症について経過観察する臨床研究を遂行しました。手足症候群の発症について年齢、性別、肝硬変の有無、病期、投与量、抗腫瘍効果、内服期間、末梢血流量の増減、鰹だしの飲用の有無、の各因子別に検討しました。
メダカモデルを用いた、ヒスチジンの効果の検証では、血管壁がGFPという緑色の蛍光蛋白で光り、血管を可視化できるメダカを対象として、その尾ひれの血管で手足症候群の状況を再現しました。そのメダカをソラフェニブ及びヒスチジンを含有した水槽で飼育し、血管変化を経時的に測定し、ソラフェニブによる血管障害メカニズムとヒスチジンによる予防効果を検討しました。
 
Ⅲ.研究の成果
手足症候群を発症される患者様では、エコー検査で、手足の温度、眼底血流などが低下することが明らかとなりました。一方で、鰹だしを飲用いただいた患者さんでは、血流低下がおこりにくく手足症候群の発症が明らかに少ない結果を得ました(図1)。これらの結果は、日本古来の食品である鰹だしの血管拡張効果によって、手足症候群の発症が抑えられたことを示唆しています。
さらに、メダカを用いた、鰹だしの成分であるヒスチジンの効果の検証でも、メダカ尾ひれの血管が拡張し、ソラフェニブによる血管障害を軽減していることが示唆されました(図2)。

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Ⅳ.今後の展開
本研究では、ソラフェニブによる手足症候群が血流低下によって生じること、鰹だしという日本古来の食品の血管拡張作用によって、その発症が制御できることを明らかにしました。さらにヒスチジンがその有効成分のひとつであることが示唆されました。
今後は、本研究成果に基づいた手足症候群の発症予防を推進するとともに、ヒスチジンのサプリメントによる予防を含めた新たな治療法の開発に役立つと考えます。
今回の成果により、血管が蛍光で光るメダカが、ナショナルバイオリソースプロジェクト(NBRP)に登録され、容易に入手できるようになりました。
 
Ⅴ.研究成果の公表
これらの研究成果は、平成30年4月17日(日本時間)のCancer Management and Research誌(IMPACT FACTOR 3.851)及び平成30年1月10日(日本時間)のBiochemical and Biophysical Research Communications誌(IMPACT FACTOR 2.466)に掲載されました。
論文タイトル:Effective Prevention of Sorafenib-induced Hand-Foot Syndrome by Dried Bonito Broth
著者:Kenya Kamimura, Yoko Shinagawa, Ryo Goto, Kohei Ogawa, Takeshi Yokoo, Akira Sakamaki, Satoshi Abe, Hiroteru Kamimura, Takeshi Suda, Hiroshi Baba, Takayuki Tanaka, Yoshizu Nozawa, Naoto Koyama, Masaaki Takamura, Hirokazu Kawai, Satoshi Yamagiwa, Yutaka Aoyagi,Shuji Terai.
Cancer Management and Research In Press
論文タイトル:Effect of histidine on sorafenib-induced vascular damage: Analysis using novel medaka fish model.
著者:Yoko Shinagawa-Kobayashi Y, Kenya Kamimura, Ryo Goto, Kohei Ogawa, Ryosuke Inoue, Takeshi Yokoo, Norihiro Sakai, Takuro Nagoya, Akira Sakamaki, Satoshi Abe, Soichi Sugitani, Masahiko Yanagi, Koichi Fujisawa, Yoshizu Nozawa, Naoto Koyama, Hiroshi Nishina, Makoto Furutani-Seiki, Isao Sakaida, Shuji Terai.
Biochem Biophys Res Commun. 496: 556-561.
doi: 10.1016/j.bbrc.2018.01.057 PMID: 29331379.
 
<用語解説>
(注1)手足症候群
種々の抗悪性腫瘍薬の副作用として手や足の皮膚が障害される症状です。手のひらや足の裏が赤くなったり、みずぶくれになったりするため、生活に支障をきたすこともあります。
(注2)分子標的薬
様々な疾患において、治療の標的となる特定の分子の機能を制御することによって治療効果を得るための薬です。
 
 
本件に関するお問い合わせ先
新潟大学大学院医歯学総合研究科 消化器内科学分野
教授 寺井崇二
E-mail:terais@med.niigata-u.ac.jp
講師 上村顕也
E-mail:kenya-k@med.niigata-u.ac.jp

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平成30年04月20日

No_79 除菌治療によるヘリコバクター・ピロリ過敏症発症のメカニズム−細胞外小胞を介した抗原提示の可能性−

新潟大学大学院医歯学総合研究科皮膚科阿部理一郎教授および消化器内科寺井崇二教授らの研究グループは、北海道大学医学研究科皮膚科、医薬基盤研究所プロテオームリサーチプロジェクト等との共同研究で、ヘリコバクター・ピロリ菌の除菌療法に伴う皮疹出現のメカニズムを明らかにしました。
 
【本研究成果のポイント】
・胃の細菌であるヘリコバクター・ピロリ菌の除菌治療により、ヘリコバクター・ピロリ過敏症をきたすことがある。
・ヘリコバクター・ピロリ過敏症により、全身の紅斑を生じる。
・ヘリコバクター・ピロリ過敏症の発症に細胞外小胞が関与することが分かった。
 
Ⅰ.研究の背景
ヘリコバクター・ピロリ菌は胃に感染する細菌であり、胃炎や胃癌の発症に関与します。ヘリコバクター・ピロリ菌の除菌のために、抗菌薬とプロトンポンプ阻害剤(胃薬)の内服を7日間行います。この除菌療法により、全身の小型の紅斑が出現することがしばしばみられます。これは抗菌薬や胃薬の内服により出現する薬疹よりも高い頻度でみられます。また、除菌療法終了後に皮疹が出現することがあり、薬疹としては経過が典型的ではありません。
そのため、ヘリコバクター・ピロリ菌の除菌療法により出現する皮疹は薬疹以外のメカニズムでも出現していることが予想されます。
本研究では、ヘリコバクター・ピロリ菌除菌に関連して皮疹が出現するメカニズムを解析しました。
 
Ⅱ.研究の概要
ヘリコバクター・ピロリ菌の除菌に関連して皮疹が出現した患者さん、皮疹が出現しなかった患者さんに関して解析を行いました。
 
Ⅲ.研究の成果
ヘリコバクター・ピロリ菌の除菌に関連して皮疹が出現した患者さんに、血液検査でできる薬疹の原因薬剤特定のための検査である「薬剤誘発性リンパ球刺激試験(DLST)」(注釈1)を施行しました。除菌治療中に皮疹が出現した患者さんは除菌のための薬剤に対してDLSTが陽性となりましたが、除菌治療を終了した後に皮疹が出現した患者さんではDLSTが陰性となりました。この結果からは、除菌治療終了後に出現する皮疹は、薬疹以外のメカニズムの関与があることが予想されます。そこでピロリ菌過敏症の有無について検討しました。
除菌後に皮疹が出現し、DLSTが陰性だった患者さんの血液からリンパ球を抽出し、ヘリコバクター・ピロリ菌を添加して刺激したところ、IL-2、IL-4、IL-6、IFN-γおよびTNF-αなどの炎症性サイトカインの産生の上昇、ヘリコバクター・ピロリ菌に対して特異的に反応するCD4+T細胞の増加がみられました。健常者や、除菌により皮疹の出現しなかった患者さんのリンパ球ではこれらの炎症性サイトカインの産生の上昇や、ヘリコバクター・ピロリ菌特異的なCD4+T細胞の増加はみられませんでした。この結果は除菌終了後に皮疹が出現した患者さんには、薬剤ではなくヘリコバクター・ピロリ菌自体に対する免疫反応が形成されていることを示唆しています。
次にヘリコバクター・ピロリ菌がどのように抗原として認識されるかを検討しました。我々はエクソソームなどの細胞外小胞の役割に注目しました。細胞外小胞は様々なタンパク質や核酸を含み、体内での情報伝達に重要な役割を担っております。最近の研究で、ヘリコバクター・ピロリ菌に感染した患者さんの血液中の細胞外小胞に、ヘリコバクター・ピロリ菌を構成する物質が含まれていると報告されております。このヘリコバクター・ピロリ菌のタンパク質を含む細胞外小胞が、ヘリコバクター・ピロリ菌に対する免疫反応を誘発するという仮説を立てました。実際に除菌後に皮疹が出現した患者さんから抽出した細胞外小胞から、ヘリコバクター・ピロリ菌のタンパク質が検出されましたが、皮疹が出現しなかった患者さんの細胞外小胞からは検出されませんでした。除菌後に皮疹が出現した患者さんから抽出した細胞外小胞を血液から抽出したリンパ球に添加して刺激すると、ヘリコバクター・ピロリ菌特異的なCD4+T細胞の増加がみられました。この結果から、除菌に伴い、ピロリ菌の菌体成分が体内に吸収され、さらに細胞外小胞に含まれることにより、ピロリ菌に対する過敏症を発症する機序が考えられた。
 
Ⅳ.今後の展開
本研究の結果から、ヘリコバクター・ピロリ菌除菌後に出現する皮疹はヘリコバクター・ピロリ菌に対する過敏症であり、この過敏症の形成に細胞外小胞が関与していることが分かりました。
抗菌薬や胃薬は使用される頻度の高い薬剤です。ヘリコバクター・ピロリ菌の除菌治療に関連して出現する皮疹は、抗菌薬や胃薬による薬疹と誤診されることが多くありますが、誤った薬疹の診断は患者さんの今後の治療の選択を不必要に狭めてしまうリスクがあります。今回の研究で用いたヘリコバクター・ピロリ菌刺激による特異的CD4+T細胞の検出手法により、誤った薬疹の診断を回避できることが期待されます。
 
用語解説
注釈1)薬剤誘発性リンパ球刺激試験(DLST)
薬剤によるアレルギー症状のうち,とくに遅発性(W型)アレルギーの機序による薬剤アレルギーに対して,ある特定の薬剤が関与しているか否かを知るための検査です。患者さんの血液細胞に、疑われる薬剤を添加して培養することで、血液細胞の活発(増殖)になるかを測定します。薬剤に対してアレルギーがあれば、血液細胞が増殖するので、それで判定できます。
 
Ⅴ.研究成果の公表
これらの研究成果は、平成30年4月10日のJournal of Allergy and Clinical Immunology誌(IMPACT FACTOR 13.081)のオンライン版に掲載されました。
論文タイトル:Potential role of extracellular vesicle-meditated antigen presentation in Helicobacter pylori hypersensitivity during eradication therapy
著者:Takamasa Ito, Takashi Shiromizu, Shunsuke Ohnishi, Shotaro Suzuki, Katsuhiro Mabe, Akito Hasegawa, Hideyuki Ujiie, Yasuyuki Fujita, Yuichi Sato, Shuji Terai, Mototsugu Kato, Masahiro Asaka, Takeshi Tomonaga, Hiroshi Shimizu,* Riichiro Abe*
*: corresponding author
doi: 10.1016/j.jaci.2018.02.046
 
 
本件に関するお問い合わせ先
新潟大学医学部 皮膚科学
教授 阿部理一郎
E-mail:aberi@med.niigata-u.ac.jp

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平成30年04月13日

No_78 希少疾患ファブリー病の多尿のメカニズム −ファブリー病モデルマウスで解明−

新潟大学大学院医歯学総合研究科腎医学医療センターの丸山弘樹特任教授らの研究グループは、多尿を呈するファブリー病モデルマウスを解析して、ファブリー病の多尿のメカニズムを明らかにしました。
 
【本研究成果のポイント】
・多尿を呈するファブリー病モデルマウスの尿細管障害を解析しました。
・障害が強い尿細管は、Na+の再吸収が盛んで、尿の濃縮に関わる髄質のヘンレの太い上行脚でした。
・ヘンレの太い上行脚(遠位直尿細管)でNa+の再吸収に関わる3つのタンパク質はいずれも発現が低下していました。
・糸球体障害は認められないにも関わらず、腎機能の低下が認められました。
・障害された尿細管の周囲に線維化を認め、腎機能の低下を来していました。
 
Ⅰ.研究の背景
ファブリー病は希少疾患であり、厚生労働省によって原因究明・治療法等の研究が強く推進さている難治性疾患克服研究事業の対象疾患の一つです。病態の解明は、効果的な治療提案に貢献する研究テーマです。
ファブリー病は細胞のライソゾーム内に存在する加水分解酵素であるα-ガラクトシダーゼAの遺伝子の変異による遺伝性疾患です。この酵素の働きが低下するので、糖脂質グロボトリアオシルセラミド(注釈1)を分解できません。糖脂質が全身の臓器の細胞に蓄積します。とりわけ、腎臓障害はファブリー病の予後に関わります。
研究テーマである多尿は、1958年、ファブリー病の初期症状として初めて報告されましたが、尿細管(注釈2)の障害部位とそのメカニズムは不明のままでした。腎臓での糖脂質の蓄積は、糸球体(注釈3)では目立ちますが、尿細管では気づかれにくいこと、従来のモデルマウスであるα-ガラクトシダーゼA遺伝子のノックアウトマウス(注釈4)が無症状であることが解明の障壁でした。
従来のモデルマウスに症状が認められない原因として、グロボトリアオシルセラミドの負荷が不十分であると考えました。2013年、本研究グループは、グロボトリアオシルセラミドの負荷を増やす目的で、グロボトリアオシルセラミド合成酵素遺伝子のトランスジェニックマウス(注釈5)を作って従来のモデルマウスと掛け合わせて、多尿を呈する新たなモデルマウスを作りました。
2008年、ファブリー病患者の剖検結果から、腎臓の深い所にある髄質の尿細管であるヘンレの太い上行脚(遠位直尿細管)に糖脂質が蓄積しやすいことが報告されました。
 
Ⅱ.研究の概要
マウスの腎臓は小さいので、腎臓全体を含む断面を作製することが可能であり、尿細管全体を俯瞰できます。糸球体で作られた原尿は、近位尿細管、ヘンレの太い上行脚(遠位直尿細管)、遠位曲尿細管、集合管を通る間に電解質や水の再吸収を受けて濃縮されます。
電解質や水を再吸収するために各尿細管に特異的なタンパク質が発現しています。そこで、これらのタンパク質に結合する抗体を用いた免疫染色でヘンレの太い上行脚(遠位直尿細管)、遠位曲尿細管、集合管を同定して、新たなモデルマウスの多尿のメカニズムを解析しました。
 
Ⅲ.研究の成果
モデルマウスでは、糖脂質の蓄積が多く、障害の強い尿細管は髄質のヘンレの太い上行脚(遠位直尿細管)でした(図1)。

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ヘンレの太い上行脚(遠位直尿細管)は、Na⁺の再吸収が盛んに行われて、尿の濃縮を担う尿細管です。皮質と比べて髄質は血流が乏しく、障害を受けやすいのです。糸球体障害は認められないにも関わらず、腎機能の低下(注釈6)が認められました。障害尿細管の周囲には線維化が認められて、これが腎機能障害を来していました。ヘンレの太い上行脚(遠位直尿細管)でNa⁺の再吸収に関わる3つのタンパク質−Na⁺-K⁺-2Cl⁻コトランスポーター、ウロモジュリン、Na⁺-K⁺-ATPase−(注釈7)はいずれも発現が低下していました。同様に、ファブリー病患者においても障害が強いのは髄質のヘンレの太い上行脚(遠位直尿細管)でした。
以上から、髄質のヘンレの太い上行脚(遠位直尿細管)障害が多尿の原因であると考えられました。
 
Ⅳ.今後の展開
腎生検では浅い所にある皮質が採取されます。深い所にある髄質の尿細管は採取できないことが多いです。今回の研究成果を基に、非侵襲的に尿所見で髄質のヘンレの太い上行脚(遠位直尿細管)の障害を検出する方法を開発することで、腎障害の早期発見が可能になり、尿細管障害に着目した治療方法の提案が可能になると思います。
 
用語解説
注釈1)グロボトリアオシルセラミド
グロボトリアオシルセラミドは、α-ガラクトシダーゼAが分解する物質(基質)であり、ファブリー病で蓄積する代表的な糖脂質です。
 
注釈2)尿細管
糸球体でろ過されてできたろ液(原尿)は、膀胱で尿として貯められるまでに、尿細管で必要な電解質やタンパク質などが再吸収されて、水分量も調整されます。原尿の99%は体内に再吸収されて、最終的には1%が尿として体外に排泄されます。尿細管は、尿の流れに沿って近位尿細管、ヘンレの太い上行脚(遠位直尿細管)、遠位曲尿細管、集合管があります。尿細管によって機能と形態が異なります。
 
注釈3)糸球体
腎臓の糸球体では、血液がろ過されて原尿(尿のもと)が作られます。
 
注釈4)α-ガラクトシダーゼA遺伝子のノックアウトマウス
遺伝子操作でα-ガラクトシダーゼA遺伝子が破壊されて無効化された遺伝子組み換えマウスです。このノックアウトマウスは、α-ガラクトシダーゼAが作られませんが、無症状です。病態の解明には、症状を呈するモデルマウスが必要です。
 
注釈5)グロボトリアオシルセラミド合成酵素遺伝子のトランスジェニックマウス
グロボトリアオシルセラミド合成酵素遺伝子を遺伝子操作で導入して、グロボトリアオシルセラミドを過剰に発現させたマウスです。
 
注釈6)腎機能の低下
尿を産生する糸球体と尿細管をあわせてネフロンと呼びます。正常に機能するネフロンが減る腎機能が低下します。
 
注釈7)Na⁺-K⁺-2Cl⁻コトランスポーター、ウロモジュリン、Na⁺-K⁺-ATPase
ヘンレの太い上行脚(遠位直尿細管)がNa⁺を尿中から再吸収するには、細胞内に配置された以下の3つの装置が必要です。Na⁺-K⁺-2Cl⁻コトランスポーターのほとんどがヘンレの太い上行脚(遠位直尿細管)に存在します。Na⁺-K⁺-2Cl⁻コトランスポーターは尿細管腔側に存在して尿中Na⁺を細胞内に輸送します。ウロモジュリンはヘンレの太い上行脚(遠位直尿細管)特異的に存在します。ウロモジュリンは尿細管腔側を主体に細胞全体に存在してNa⁺-K⁺-2Cl⁻コトランスポーターの働きを促進します。Na⁺-K⁺-ATPaseは、尿細管基底側に存在して尿中Na⁺を細胞外に輸送します。Na⁺の再吸収が盛んに行われるヘンレの太い上行脚(遠位直尿細管)では、Na⁺-K⁺-ATPaseが高密度に存在します。
 
Ⅴ.研究成果の公表
これらの研究成果は、平成30年3月19日のFASEB J誌(IMPACT FACTOR 5.498)online版に掲載されました。
論文タイトル:Medullary thick ascending limb impairment in the GlatmTg(CAG-A4GALT) Fabry model mice
著者:Hiroki Maruyama*, Atsumi Taguchi, Yuji Nishikawa, Chu Guili, Mariko Mikame, Masaaki Nameta, Yutaka Yamaguchi, Mitsuhiro Ueno, Naofumi Imai, Yumi Ito, Takahiko Nakagawa, Ichiei Narita, Satoshi Ishii.
*: corresponding author
doi: org/10.1096/fj.201701374R
 
 
本件に関するお問い合わせ先
新潟大学医歯学総合研究科 腎医学医療センター
特任教授 丸山弘樹
E-mail:hirokim@med.niigata-u.ac.jp

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平成30年04月13日

No_77 潜在する希少疾患ファブリー病患者の診断 −血中lyso-Gb3 の有用性−

新潟大学大学院医歯学総合研究科腎医学医療センターの丸山弘樹特任教授らの研究グループは、血中グロボトリアオシルスフィンゴシン(lyso-Gb3)の測定がファブリー病患者の発見に有用であることを明らかにしました。
 
【本研究成果のポイント】
・古典型、遅発型のいずれのファブリー病患者においても血中lyso-Gb3が高値を示しました。
・血中lyso-Gb3検査は、従来の検査では診断がむずかしい女性患者、遅発型患者の発見にも有用でした。
・血中lyso-Gb3検査は確定診断のための遺伝子解析の必要性を決めるのに有用な指標になります。
 
Ⅰ.研究の背景
ファブリー病は希少疾患であり、厚生労働省によって原因究明・治療法等の研究が強く推進さている難治性疾患克服研究事業の対象疾患の一つです。早期治療が重要ですが、診断が困難で治療開始までに長期間を有することが課題となっています。
ファブリー病は、細胞のライソゾーム内に存在する加水分解酵素であるα-ガラクトシダーゼA(α-Gal A)の遺伝子の変異による遺伝性疾患です。この酵素の働きが低下するので、糖脂質グロボトリアオシルセラミド(注釈1)を分解できません。糖脂質が全身の臓器の細胞に蓄積します。ファブリー病の病型は2つあります。古典型では早期症状(四肢先端の異常感覚・疼痛、群発性被角血管腫、渦巻き状角膜混濁、低汗・無汗症)(注釈2)が小児期から認められ、その後腎臓障害、心臓障害、脳血管障害といった予後に関わる症状が表れます。一方、遅発型(注釈3)には早期症状がなく、ファブリー病に特徴的な症状が認められないことから診断されにくいとされています。
診断にはα-Gal A活性が用いられます。男性患者では、α-Gal A活性が低下するので有用ですが、女性患者では、多くの場合α-Gal A活性が正常範囲内にあるので診断には使えません。また、古典型と比べて、特徴的な早期症状を欠く遅発型の診断はむずかしいです。確定診断には、α-Gal Aの遺伝子を解析します。症状からファブリー病を疑って、α-Gal A活性の低下を確認した上で遺伝子を解析しても、結果的にファブリー病でない人にも遺伝子解析をしてしまうことが多いのです。本研究グループは、ストレスの掛かる遺伝子解析を受ける候補者を絞り込むことができる検査を開発したいと考えていました。2008年、すでに古典型ファブリー病と診断されている患者を対象とした研究で、古典型ファブリー病では血中の糖脂質グロボトリアオシルスフィンゴシン(lyso-Gb3)(注釈4)が高値になることが報告されました。
 
Ⅱ.研究の概要
本研究は、産学共同、多施設研究です。国内169の医療機関(腎臓内科、循環器内科、神経内科、小児科)から登録のあったファブリー病を疑う症状を有する2,360名(男性1,324名)に一次スクリーニングとして血中lyso-Gb3濃度とα-Gal A活性を測定しました。いずれかに異常値が認められた患者のうち同意が得られた場合に二次スクリーニングα-Gal Aの遺伝子を解析しました。
 
Ⅲ.研究の成果 (図1、2)
血中lyso-Gb3が高値(≥ 2.0 ng/ml)でかつα-Gal A活性が低値(≤ 4.0 nmol/h/ml)を示した男性8名のうち遺伝子解析を受けた7名がファブリー病(古典型2名、遅発型5名)と診断されました。女性15名が血中lyso-Gb3が高値を示しました。このうち7名はα-Gal A活性が低値を示して、遺伝子解析を受けた5名がファブリー病(古典型4名、遅発型1名)と診断されました。残りの8名はα-Gal A活性が正常範囲内にあり、遺伝子解析を受けた4名のうち1名には古典型ファブリー病の変異、1名には非病原性変異、2名には意義不明の変異が認められました。
血中lyso-Gb3が正常でα-Gal A活性が低値の男性11名のうち遺伝子解析を受けた4名は非病原性変異と診断されました。血中lyso-Gb3が正常でα-Gal A活性が低値の女性6名のうち遺伝子解析を受けた2名は非病原性変異と診断されました。
今回発見されたファブリー病患者はいずれも血中lyso-Gb3が高値を示しました。血中lyso-Gb3の測定から、診断がむずかしい女性患者および遅発型患者を発見することができました。血中lyso-Gb3は、古典型、遅発型のファブリー病患者の診断に有用な一次スクリーニングになる可能性があります。

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Ⅳ.今後の展開
今回の研究成果から、血中lyso-Gb3による診断方法を用いることで、潜在するファブリー病患者の早期発見が容易になり、早期治療が可能になることが期待されます。
 
用語解説
(注釈1)グロボトリアオシルセラミド
グロボトリアオシルセラミドは、α-Gal Aが分解する基質であり、ファブリー病で蓄積する代表的な糖脂質です。ファブリー病患者の血中グロボトリアオシルセラミド値は、ファブリー病でない対照者の血中グロボトリアオシルセラミド値と区別できないことがあります。そのため、血中グロボトリアオシルセラミド値はファブリー病の診断には用いられません。
 
(注釈2)古典型ファブリー病の早期症状
小児期から生じて、古典型ファブリー病に認められる症状であり、診断の端緒になることがあります。
四肢先端の異常感覚・疼痛は、発熱、運動、暑さで誘発されて、増悪することが特徴です。一般的な鎮痛薬が効きません。群発性被角血管腫は、点状の赤色の皮疹です。体幹の皮膚に好発します。細隙灯顕微鏡検査で灰白色の渦巻き状角膜混濁として観察されます。以上の3つは古典型ファブリー病に特徴的な症状です。
古典型ファブリー病に特徴的ではありませんが、低汗・無汗症が認められます。これは、高温あるいは多湿の環境下にいても発汗が少ないあるいは見られない状態です。
 
(注釈3)遅発型ファブリー病
古典型ファブリー病と異なり、早期症状が認められないので、遅発型ファブリー病を疑う端緒が病理所見であることが多いです。例えば、タンパク尿の原因検索で行った腎臓の病理検査(腎生検)あるいは肥大型心筋症の原因検索で行った心臓の病理検査(心内膜心筋生検)でファブリー病に特徴的な病理所見が認められて、初めて気づかれることがあります。しかし、侵襲的な病理検査を受けていないタンパク尿あるいは肥大型心筋症の患者は多いと思います。ですから、病理検査を受けなくてもファブリー病を疑う所見が得られる非侵襲性検査として血中lyso-Gb3が期待されます。
 
(注釈4)グロボトリアオシルスフィンゴシン(lyso-Gb3)
Lyso-Gb3はα-Gal A活性を阻害する物質です。Lyso-Gb3はα-Gal Aが分解する基質でもあります。血中lyso-Gb3値は血中グロボトリアオシルセラミド値の約1000分の1ですが、ファブリー病患者の血中lyso-Gb3値は、ファブリー病でない対照者の血中lyso-Gb3値よりも高いことが多く、診断の指標として期待されています。
 
Ⅴ.研究成果の公表
これらの研究成果は、平成30年3月15日のGenetics in Medicine誌(IMPACT FACTOR 8.229)online版に掲載されました。
論文タイトル:Effectiveness of plasma lyso-Gb3 as a biomarker for selecting high-risk patients with Fabry disease from multispecialty clinics for genetic analysis
著者:Hiroki Maruyama*, Kaori Miyata, Mariko Mikame, Atsumi Taguchi, Chu Guili, Masaru Shimura, Kei Murayama, Takeshi Inoue, Saori Yamamoto, Koichiro Sugimura, Koichi Tamita, Toshihiro Kawasaki, Jun Kajihara, Akifumi Onishi, Hitoshi Sugiyama, Teiko Sakai, Ichijiro Murata, Takamasa Oda, Shigeru Toyoda, Kenichiro Hanawa, Takeo Fujimura, Shigehisa Ura, Mimiko Matsumura, Hideki Takano, Satoshi Yamashita, Gaku Matsukura, Ryushi Tazawa, Tsuyoshi Shiga, Mio Ebato, Hiroshi Satoh, and Satoshi Ishii.
*: corresponding author
doi: 10.1038/gim.2018.31
 
 
本件に関するお問い合わせ先
新潟大学医歯学総合研究科 腎医学医療センター
特任教授 丸山弘樹
E-mail:hirokim@med.niigata-u.ac.jp

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平成30年04月02日

No_76 タンパク尿発症の新たな分子機構を解明 −タンパク尿の新規治療法開発に貢献−

新潟大学大学院医歯学総合研究科腎研究センター腎分子病態学分野の河内裕教授、福住好恭准教授らの研究グループは、新潟大学脳研究所動物資源開発研究分野、新潟市民病院小児科、帝京大学内科との共同研究で、タンパク尿発症の責任部位である腎糸球体上皮細胞(注1)スリット膜(注2)の機能分子としてエフリン-B1(注3)を同定し、その機能異常によりタンパク尿が発症することを明らかにしました。タンパク尿は、腎臓病の最も重要な臨床所見であるだけでなく、脳・心血管疾患の発症にも相関していることが明らかになっていますが、タンパク尿発症の分子メカニズムは未解明で、有効な治療薬が開発されていません。本研究成果は新規タンパク尿治療法開発への貢献が期待されます。この研究成果は、Journal of the American Society of Nephrology誌(米国腎臓学会誌)(インパクトファクター:9.423)に3月31日(土)午前6時(日本時間)掲載されました。
 
【本研究成果のポイント】
・タンパク尿(血液中のタンパク質が尿に漏れ出てしまっている状態)の発症を防ぐバリア装置である腎糸球体上皮細胞スリット膜の分子構造の形成にエフリン-B1が重要な役割を果たしていること、エフリン-B1を欠損させたマウスはタンパク尿を発症することを明らかにした。
・エフリン-B1はスリット膜が感知した尿の状態を糸球体上皮細胞内に情報伝達するシグナル分子としての機能を果たしていることを示した。
・エフリン-B1の発現、分子機能の制御による新規タンパク尿治療法の開発が期待される。
 
Ⅰ.研究の背景
慢性腎臓病(注4)の総患者数は、約1,300万人と推定されており、新たな国民病と捉えられています。腎臓の主な役割は尿を作ることです。腎臓は、人が生きていくために行われる代謝で生じた老廃物を尿として排泄する一方で、身体に必要なタンパク質を尿中に漏らさないようにしています。このための濾過装置が糸球体と呼ばれる構造物です。タンパク尿はこの濾過装置のバリア機能が低下し血液中のタンパク質が尿中に漏れ出てしまっている状態です。タンパク尿は、腎臓病の濾過装置の傷害を示す最も重要な臨床所見であり、タンパク尿自体が腎臓病をさらに進行させる悪化因子であることが明らかになっています。また、タンパク尿を示す人は、脳卒中や心血管疾患の発症率が約3倍であるとする統計学的な検討結果が報告されており、タンパク尿は、これら生命予後に重大な影響を与える他臓器疾患の発症にも関連していることが明らかになっています。
新潟大学腎研究センター腎分子病態学分野の研究グループは、糸球体上皮細胞の細胞間に存在するスリット膜という構造物が、タンパク質が尿中に漏れ出ないようにしている最終バリアであることを世界に先駆けて明らかにしました。スリット膜は小さな孔を持つ格子状の構造をしています。老廃物は小さい分子のためこの格子構造の孔を通過しますが、分子径の大きいタンパク質はこの孔を通れません。腎臓病の患者さんでは、この格子構造に異常が起こり、孔が大きくなり、タンパク質が尿中に漏れ出てしまいます。この状態がタンパク尿です。スリット膜のこの格子構造がどのような分子で形成されているのでしょうか?その詳細は現在も不明です。また、どのような機序でこの分子構造が変化してタンパク尿が発症するのか?ということについてはまだほどんど分かっていないというのが現状です。そのため、タンパク尿に対する有効な治療法が確立されていません。
 
Ⅱ.研究の概要
スリット膜の格子構造の中心部は、Nephrinと呼ばれる分子量18万ダルトンの大きい分子が重なりあって形成されていることが報告されていましたが、一定の大きさの孔をもつ頑丈な格子構造を維持するための分子構造の詳細は不明でした。これまでの研究で、エフリン-B1がスリット膜に発現していること、タンパク尿を呈する病態で発現が低下していることを報告してきました。本研究では、スリット膜におけるエフリン-B1の発現を随時に低下させることができる遺伝子改変マウスを開発し、スリット膜におけるエフリン-B1の機能を解析しました。スリット膜の分子構造の維持にエフリン-B1が重要な役割を果たしていること(図1左)、エフリン-B1を欠損させたマウスはタンパク尿を発症すること(図1右)を明らかにしました。

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エフリン-B1とNephrinはともに細胞膜を1回貫通して細胞外に突き出た細胞膜分子ですが、エフリン-B1は分子量4万ダルトンの比較的小さい分子です。本研究では、エフリン-B1とNephrinの結合様式を詳細に解析し、エフリン-B1は、Nephrin分子を根元で支えるような形で結合していることを明らかにしました(図2-A)。さらに、Nephrin分子が抗体などで刺激されると、Nephrinと結合しているエフリン-B1がリン酸化(注5)されます。リン酸化されたエフリン-B1はNephrinとの結合性が低下し、スリット膜の分子構造が変化し、タンパク尿が発症することを示しました(図2-B)。エフリン-B1を欠損したマウスでは、スリット膜の精緻な分子構造が形成されないため、タンパク尿が発症すると考えられます(図2-C)。また。リン酸化されたエフリン-B1はJNKシグナル(注6)を活性化させること、また、エフリン-B1を欠損したマウスでは、JNKシグナルの活性化が顕著に低下することを発見し、エフリン-B1が糸球体でのJNKシグナルを制御していることを明らかにしました(図3)。さらに、リン酸化エフリン-B1により下流のJNKシグナルが活性化されると細胞の運動性が亢進することを発見しました(図4)。糸球体上皮細胞の運動性が亢進すると糸球体が不安定になり、一定の孔を持つスリット膜構造の維持が難しくなり、さらに重篤なタンパク尿を引き起こすと考えられます。本研究では、ネフローゼ症候群(注7)の症例、ラットのネフローゼ症候群モデルでは、エフリン-B1の発現が低下し、残っているエフリン-B1がリン酸化していることを発見しました(図5)。エフリン-B1の発現、機能異常によりタンパク尿が発症する新たな分子機構を発見しました。

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Ⅲ.研究の成果
・タンパク尿の発症を防ぐバリア装置である腎糸球体上皮細胞スリット膜の分子構造の維持にエフリン-B1が重要な役割を果たしていること、エフリン-B1の発現低下、機能異常によりタンパク尿が発症することを発見しました。
・エフリン-B1はスリット膜が感知した細胞外の情報を細胞内に伝えるシグナル伝達分子としての役割を果たしていることを発見しました。
・ネフローゼ症候群の症例でエフリン-B1の発現が低下していることを発見しました。
 
Ⅳ.今後の展開
本研究は、スリット膜のバリア機能維持におけるエフリン-B1の役割を解明し、タンパク尿発症の新たな分子機構を明らかにしました。エフリン-B1の発現低下の抑制、リン酸化抑制、JNK活性を制御する薬剤、化合物がタンパク尿治療薬として有効である可能性を示しました。今後、既存の薬剤、新規化合物での検討を行い、タンパク尿の新規治療薬の開発を目指します。
 
<用語解説>
(注1)腎糸球体上皮細胞:
糸球体を構成する3種の細胞の1つで、糸球体の最外層に位置し、糸球体の形態の維持、糸球体のバリア機能の維持において最も重要な役割を果たしている細胞。神経細胞や心筋細胞と同様、生体内で最も分化した細胞の1つで増殖能を持たない。
(注2)スリット膜:
糸球体上皮細胞間に存在する細胞間接着装置。血液中のタンパク質が尿中に漏れ出るのを防ぐ最終バリアとしての役割を果たしている。多くの腎疾患におけるタンパク尿は、スリット膜のバリア機能の障害により発症すると考えられている。
(注3)エフリン-B1:
1回膜貫通型の細胞膜分子。全身の多くの細胞で発現している。神経細胞や心筋細胞でエフリン-B1を欠損させたマウスでは、神経ネットワーク形成の異常、心臓の血管構築の異常が起こる。
(注4)慢性腎臓病:
腎の濾過機能を示す数値が60%以下になった状態、もしくは持続性のタンパク尿が確認されると慢性腎臓病と診断される。国内の総患者数は1,300万人と推定されている。慢性腎不全(腎機能が低下し、血液透析療法、腎移植が必要となる状態)の予備軍と考えられている。
(注5)リン酸化:
タンパク質の機能を変化させる化学反応(機能修飾)の1つ。タンパク質はリン酸化すると立体構造が変化し、多くの場合、機能が活性化する。活性化されたタンパク質は、他のタンパク質を活性化、あるいは不活性化させる。また、他のタンパク質と結合する、あるいは解離するなど多種多様な方法で細胞内にシグナルを伝達させる。
(注6)JNKシグナル:
細胞外からの様々なストレス刺激や細胞内のシグナルを核へ伝達するための主要な細胞なシグナル伝達システムの1つ。JNKは上流の活性化因子によりリン酸化されると活性化し、下流のタンパク質をリン酸化させる。核内に情報を伝え、遺伝子発現を調節することにより、アポトーシス、細胞運動などの細胞応答を誘導する。
(注7)ネフローゼ症候群:
高度なタンパク尿を示す病態。持続的なタンパク尿により血液中のタンパク質が低下するため、全身性の浮腫、感染に対する抵抗力の低下などの症状を呈する。
 
Ⅴ.研究成果の公表
これらの研究成果は、Journal of the American Society of Nephrology誌(米国腎臓学会誌)(インパクトファクター: 9.423)のオンライン版に平成30年3月31日(土)午前6時(日本時間)掲載されました。
論文タイトル:Nephrin-binding ephrin-B1 at slit diaphragm controls podocyte functions through JNK pathway
著者:Yoshiyasu Fukusumi¹, Ying Zhang¹, Ryohei Yamagishi¹, Kanako Oda², Toru Watanabe³, Katsuyuki Matsui⁴ & Hiroshi Kawachi¹*
1) Department of Cell Biology, Kidney Research Center, Niigata University Graduate School of Medical and Dental Sciences
2) Department of Comparative and Experimental Medicine, Brain Research Institute, Niigata University, Niigata, Japan
3) Department of Pediatrics, Niigata City General Hospital, Niigata, Japan
4) Department of Internal Medicine IV, Teikyo University School of Medicine, Kawasaki, Japan
 
 
本件に関するお問い合わせ先
新潟大学大学院医歯学総合研究科
腎研究センター 腎分子病態学分野
教授 河内 裕
E-mail:kawachi@med.niigata-u.ac.jp

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平成30年03月20日

No_75 分子生理学分野 日比野浩 教授と緒方元気 助教の“薬物モニターシステム開発”の論文の内容〔Nature Biomed Eng, 2017〕が、Science誌の特集で紹介されました

平成29年8月10日付けで本HPに掲載された、日比野 浩 教授と緒方 元気 助教(分子生理学分野)の薬物モニターシステム開発の論文の内容〔Nature Biomedical Engineering 1: 654-666, 2017〕が、2018年3月16日号のScience誌で公開された「バイオセンサー特集」の中で紹介されました(Science 359:1287-1290, 2018)。
http://www.sciencemag.org/features/2018/03/vitro-veritas-biosensors-and-microarrays-come-life
本研究の基盤となった慶應大学理工学部との医工連携の様子や、開発した薬物モニターシステムの展開についても触れられています。
 
〇詳しい研究成果の内容はこちらをご覧ください。
 http://www.med.niigata-u.ac.jp/ph2/yakubutsu.html

 
本件に関するお問い合わせ先
新潟大学大学院医歯学総合研究科(医学部)
教授 日比野浩
E-mail:hibinoh@med.niigata-u.ac.jp

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